深夜便 落語100選~名人芸を味わう 「火焔太鼓」五代目 古今亭志ん生

NHKラジオ深夜便 迎康子アンカー
2015年5月1日 午前1:05~午前2:00 NHK第一、FM同時放送

▽深夜便 落語100選~名人芸を味わう          
  「火焔太鼓」五代目 古今亭志ん生
  NHKラジオ第一放送音源 昭和34.5.18放送

 【ゲスト】女優…池波志乃
 【解説】法政大学総長…田中優子
 【きき手】遠藤ふき子


・今年度から、通常の落語100選に加えて、「名人芸を味わう」と称して、過去の名人を紹介するシリーズを始めた。

落語100選では、現役の中堅どころの落語家を用いている。ただ、やはり名人の芸とは大きな落差を感じつつ、これだけ多くの落語家が生きていくためには名前を憶えてもらう意味で、このような機会をNHKも与えているのだろう。

「名人芸を味わう」のこれからのラインナップは不明であるが、昭和の有名どころでNHKに録音が残っているものを放送することになるのだろう。

古今亭志ん生の孫である、女優・池波志乃が師匠の生活を語った。志ん生の隣家に住み、孫であった彼女は、3歳くらいまで志ん生と妻との3人で朝ごはんを一緒に食べていた。師匠は納豆が大好物で始終食べていた。あとはマグロの刺身で一つ覚えだった。実は漬物が嫌いであった。

池波志乃が小学校一年生の時に、師匠が倒れて半身が不自由になったが、銭湯が好きで弟子たちに背負われて通っていた。また借金取りから逃げるために夜逃げし改名を繰り返すのが普通だった。稽古については、円楽さんや談志さんが来ていたが倒れてからでも将棋を指していた。

彼女から見て、普通のおじいちゃんだったが普段も変な人だった、言うこともよく変わり何が本当なのか分からないという。この演目の女房の掛け合い(口調)は、志ん生の妻(りん)そのままだったそうだ。師匠は、実生活でも骨董品屋に通っていたようで、この話とのつながりがある。

また江戸文化研究者・田中優子は、落語好きではないようだが、江戸文化の習俗の考証などで力を発揮することになろう。落語に精通していない分だけ、新鮮な切り口で解説を加えて頂けるように感じる。

今後、名人クラスを語れるようなゲストが呼べるかが興味あるところだ。今回は芸能界で活躍する女優であったので出演はスムーズだったろうが、せっかくならば人となりを語れる、それも弟子のような存在の方でないほうがいい。仲間でほめ合っているのは気持ち悪い。


なお調べていて分かったことだが、この録音番組だが、次の会社が制作してディレクター担当業務をしている。NHKの子会社ではないようだが、前社の時代からNHKや子会社の制作下請け、制作スタッフ派遣をしている。

株式会社 スーパー・ブレーンNEX  http://sbnex.co.jp

「日本の話芸」「ラジオ深夜便 落語100選」「浪曲十八番」など多くの演芸番組を制作しています。演芸界へのネットワークも強く、番組からイベントまで制作。ディレクター担当。

NHKは分社化し利益を分け与えあっている巨大メディアであり、そのすそ野は広い。NHKで面白い番組は、このような子会社、いやそのまた下の下請け会社の苦労で出来上がっていると考えて良いのだろう。


以下の動画は、別テイクの音源によるもの


古今亭志ん生 「火焔太鼓」

NHK-FM 今日は一日“戦後歌謡”三昧

今日は一日“戦後歌謡”三昧
2015年4月29日 NHK-FM ~放送センターCR501スタジオからナマ放送~
午後0:15 - 6:50(395分)
午後7:20 - 10:45(205分)

▽私たちの心に寄り添う名曲の数々を10時間
▽立川志らくと市馬・夢の紅白対決
▽中村メイコ“私とラジオと歌謡曲”
▽永六輔“中村八大といずみたく”
▽弘兼憲史・北原照久“ムード歌謡オヤジ対決”

司会 : 柳亭市馬 ・ 加賀美幸子
立川志らく ・ 中村メイコ ・ 永六輔 ・ 弘兼憲史 ・ 北原照久


・恒例のNHK-FM○○三昧シリーズで、毎年「昭和の日」に放送される「戦後歌謡三昧」。

中村メイコさんの話で、『田舎のバス』の制作経緯として、中村が名古屋で一か月公演をした時に、そこはデパート中にある劇場で、客と一緒にエレベーターを利用した。その際にエレベーターガールが、知人が入ってきたときに、急に名古屋弁になって親しく話しをしていたという逸話を三木鶏郎に話したことがきっかけに作られたという。その豹変ぶりを面白くて作られたのが『田舎のバス』ということなのだ。

この曲で中村さんは秘話として、録音では谷啓がトロンボーンを演奏し、植木等が牛の声を真似ているという。優秀なトロンボーン奏者であった谷啓だが、確かに音楽的にもきちんと効果音として入れている。なお以下の動画は曲の長さが違うのだが、録音も微妙に違っており新旧録音されている!?のかもしれない。贅沢な時代だっと中村さんは振り返った。

調べたところ、「フランキー堺とシティ・スリッカーズ」というバンドのメンバーをしていた時代の方々が録音に参加しているということだ。この点については《ウィキペディア》の脚注に、向井爽也『喜劇が好きなあなたヘ』p.188にも触れられていると書かれている。

昭和人として、昭和の全てを分かっている訳ではないが、昭和を回顧すると懐かしさというよりは、戦後の混乱から復帰しつつある時代、ラジオ・映画全盛期の頃、テレビ放送初期の頃は自由に冒険できる時代であったということだ。

また家族皆で楽しめる娯楽があった時代、忙しいけれど経済成長もあって夢があった時代なのかもしれない。つくづく感じるのだが、便利になり、お金で何でもできる時代になり自由を謳歌できそうだが、かえって不自由になり可能性が減っていくように思う。いつも時間に追われて何かをしているのだが、満足感がなく充実感もない。


今回、永六輔さんのクレジットがあったので期待して聞く。ところが永六輔さんの部分は、録音でしかも過去に放送された『真冬の夜の偉人たち』(2014年1月6日)の再構成だった。約97分。

この番組については、私のブログでも感想を書いていた。 http://iamthat.blog7.fc2.com/blog-entry-2324.html

なお、今年の新春に第2弾が放送されている。これも印象的な内容であった。

『真冬の夜の偉人たち』「永六輔といずみたく」永六輔
進行:加賀美幸子
2015年1月6日 前0:00~2:00

第5夜は永六輔さんが作曲家のいずみたくさんを語ります。
ちょうど一年前の『偉人たち』でとりあげた中村八大さんとの六八コンビと同様に、永六輔&いずみたくの2人もまた、「見上げてごらん夜の星を」をはじめとする、昭和歌謡史に残る歌をたくさん生み出した名コンビ。番組では、いずみたくさんの人物像を掘り下げながら、名曲の誕生秘話、詞と曲の関係について、そして、いずみたくと中村八大“天才2人” の個性の違いについてなどなど…今回も貴重なお話をたくさんうかがいます。




【田舎のバスは おんぼろ車】


田舎のバス ⇒(短縮バージョン)

NHKこころの時代 シリーズ 禅僧ティク・ナット・ハン

こころの時代 シリーズ 禅僧ティク・ナット・ハン

20150405.jpg

第一回「怒りの炎を抱きしめる」
2015年4月5日 ETV

世界的影響力のある禅僧ティク・ナット・ハンの教えに耳を澄ます2回シリーズ。第1回は、紛争や対立、差別などの「怒り」をどう変容させたらいいのか、人生からひもとく。

真髄は、ブッダの教えに基づく「マインドフルネス(今ここに存在する自分に気づく)」。さらに、自と他の区別をなくすことで、怒りを静め、社会を変えることができると説く。その原点は、ベトナム戦争にある。教えを受けた高僧の焼身や弟子の殺害に苦悩し、暴力で対抗することなく慈悲の境地に至る。そして、キング牧師と共鳴、国際社会を変革していく。88年の波乱に富んだ人生をたどりながら、その教えに迫る。

第二回「ひとりひとりがブッダとなる」
2015年4月12日 ETV

世界的影響力のあるベトナム人禅僧ティク・ナット・ハン、2回シリーズ。第2回は、自分を見失わずに生きる。ひとりひとりがブッダとなり目覚めていくことの大切さを語る。

教えの真髄は、ブッダの教えに基づく「マインドフルネス(今ここに存在する自分に気づく)」。競争社会の中で、見失いがちな幸せや命への感謝。そこで、立ち止まり、苦しみをも含めて、自分を受け入れることの大切さを説く。そして、大切な人を失った現実をどう受け入れたらいいか、語る。「no birth,no death(すべての命は死ぬことなく、姿を変えて生き続ける)」。生死を超えた慈しみの世界を見つめる。

【出演】ベトナム人禅僧…ティク・ナット・ハン
【語り】山根基世

【出演】第二回、日本人のみ列記
 翻訳家、精神保健福祉士…島田啓介、ティク・ナット・ハン『ブッダの幸せの瞑想【第二版】』(共訳)出版社: サンガ
 批評家…若松英輔
 僧侶(光照寺副住職)、社会慈業委員会ひとさじの会事務局長…吉水岳彦


・禅僧 ティク・ナット・ハン(釈一行)
 88歳 ベトナム出身、16歳で出家、後にフランス亡命 
 「歩く瞑想」、「プラムヴィレッジ」(Plum Village、フランス南西部の拠点)1982年~

この禅僧は良く知られている存在で著作も多数、翻訳もあり私も所蔵している。今回、NHKが2回シリーズで特集したが、とても珍しいことだ。ティク・ナット・ハン師は、2014年11月に脳出血で倒れて現在療養中という。このNHK番組のためのメッセージはなく、療養中の現在の姿は撮影されていない。どのような経緯で取り上げられたのか興味は起こる。

第一回は資料映像を構成し、その教えの源を示し、第二回は師のもとに集う人たちのインタビューを含めてさらに教えを示した。インタビューに応える人は、語っているところを短く適所に入れて構成されている。また資料映像は、この共同体での法話や各地でのリトリート(瞑想合宿)で収録されたものだろう。その日本語訳は、かなり言葉を補ったもので恣意的に抜き出したものだ。

内容を詳述することはできないが感じたことを列記し、師の業績を考えてみたいと思う。

師の考え方は、他の瞑想を大事にされる方とほぼ同じであり、やり方として「歩く瞑想」などがあるが、それは日本の禅なども取り入れておりブッダの修行の一環として捉えることができる。「マインドフルネス」(今ここに存在する自分に気づく)という、瞬間瞬間を生き切ることが、幸せや自由の鍵となることを教え、実践を求めている。

その発想は、私の考察・研究対象たるアントニー・デ・メロ師のそれに類似し、人間を縛る怒り・暴力・恐怖の源泉を見つめること=「自己を見つめる気づき」が、その解放に役立つということだ。

パソコン・携帯用アプリなどで、瞑想を誘発するものがあり、私も入れているのだが、それには鐘の音が一定間隔で入るものもある。番組では、「マインドフルネス・ベル」(”気づき”の鐘)と日本人の出演者が語っていた。鐘の音とともに、行っている行為中に、いま・ここに存在することを確認することを繰り返すことで、気づきを日常生活にまで広く感じるという配慮だろう。これはありがたり用い方で、単に時間を知らせるだけの鐘の音とは違った意味を持つ。ボーンっと鳴った時に、今していることを一瞬緩めて、いま、何をしどのように感じているのかを確認する、それが「Here and Now」を感じることになる。

気づくことで意識の変容が起こる、実はデ・メロ師も多くのページを割いて、このことを書き残している。気づくだけで大丈夫なのか、大事なことは行動ではないかという意見もあるだろう。気づくとは、自分がどのような人間であり、どのように教育され、どのように反応し、何を好み・嫌い、どのような状況が得手・苦手であり、どんな思いを抱いているのか・・・それを、すべて批判なくありのままに見るだけ、それだけなのです。それを批判したり反省したり、思い直したりする必要もなく、ただ見つめるだけで、すっと自分を客観視できるのです。ただ、それだけで大きな転機を迎えることになります。

ティク・ナット・ハン師も、それを師なりの表現や詩を通して語っているだけです。ただ、それ以降のあり方は、指導者によって変わることでしょう。ティク・ナット・ハン師も、サンガ(共同体)の重要性を説き、自らも拠点として活動をしています。

この2回の放送で、世界各地から教えを受けたいという老若男女が集っています。私は、それを見るとマザー・テレサの神の愛の宣教者会、テゼ共同体、ラルシュ共同体などなど、祈りと生活と音楽と瞑想の集団を思います。このような真面目に悩む人たちがおり、インドや欧米に出かけて行き教えを乞うという状況は今も昔も変わらないものだと感じます。問題は、師から本当に学ぶことができるか、師から離れることができるか、自ら生き方に反映させることができるかでしょう。それができないと、結局は師の存在が捉われになり、師のもっとも恐れることになるのです。

そして最大の課題は、「ひとりひとりがブッダとなる」であり、私もこのブログで、「ひとりひとりがイエス・キリストとなる」必要性を記してきましたが、同様なことなのです。これが理解でき、自らが大いなるそのものであると分かった時に、師も弟子もなく、生死の区別もなく、物質と非物質の垣根すらどうでもいいこととなるはずです。

残念ながら、このような共同体の活動が世界各地で無数にあるものの、現実社会を牛耳っている政治・経済活動に大きな影響を与えることができていないことです。ただ敢えて言えば、イエス・キリストもブッダも、究極的には社会変革を目指したわけでなく、あくまでも内心あり方を変えること、それも人間本来の価値を見つめることが、どんな政治・経済体制であってもまっとうに生きるコツであることを伝えていると感じます。

誰もが深い瞑想を体験し己を律することができないのが事実であり、多くの人たちは社会現象に右往左往し、社会や隣人を恨んで生きていくしかないのです。ただ、ほんの一部の人たちには、瞑想的な思考を得て、人間の真実を知ることで、怒り・暴力・恐怖のもとを知ることができるのみです。万人に開かれている教えであっても、なかなか把握できないという問題は残ったままです。

また瞑想ビジネスと言えるものがあり、分かったようなことを書いて、悩み相談やグッズ販売などで騙す人たちも多く存在します。インターネットで「瞑想」と検索すると、怪しげなものが多数出てくるはずです。いろいろと比較しながら見れば、どのような謳い文句で何をさせようとするのかが分かると思います。この分別ができないならば、そもそも手出しすることは止めた方がいいと思います。それほど精神世界は危険な場所でもあります。瞑想を説く書籍は多くありますが、超人的な体験を記したものは避けた方がいいでしょう。

ただ、あなたの周りにも、ティク・ナット・ハン師に値する導師が必ずいます。それを見極めて教えを受けて、自ら生きながら考えるしかありません。その道は簡単ではありませんが、求めれば必ず開けていくものと私は確信しています。

ティク・ナット・ハン師を通してでも、また別の導師でも、宗教的な古典からでも、深く学ぶことは可能なのです。それをする気持ちを持ち、探求心を持って、自分自身を見つめる方法を探ることです。その行きつくところは結局は同じ結論となると思います。こうした導師との出会いがありますように、と祈らずにはいられません。(了)


参考
ティク・ナット・ハン師の著作をいくつか出版しているサンガ(出版社)に、今回、第二回に出演された方の出版本があり、リンクとして次のページがありました。

ティク・ナット・ハン マインドフルネスの教え
ティク・ナット・ハン2015 来日招聘委員会  http://tnhjapan.org/

現在、病気療養中のティク・ナット・ハン師に代わって、全世界のセンターで指導をされている師の高弟たち(33名の僧侶団)が来日予定。4月下旬から5月上旬にかけての来日ツアーのイベント詳細は上記から。

つまり番組放送は、このイベントに向けての何らかの意味がありそうだ。それで氷解できそうだ。無料のネット中継もあり・・・

マインドフルネス・アワー
 どこかで誰かとマインドフルネス。

日時:2015年5月10日(日)

16:00 ネット中継放映開始
 「ティク・ナット・ハン&プラムヴィレッジ僧侶団来日ツアー2015」振り返り映像等放映。
16:20 ネットライブ中継(at聖路加国際病院)
 「マインドフルネス・アワー」放映開始
 プラムヴィレッジの僧侶から、皆様へのメッセージと、マインドフルネス瞑想指導をしていただきます。
16:30 ネット中継終了

Ustream録画 ⇒ http://www.ustream.tv/recorded/62098242


4/29講演会時のチャンティング映像です。
https://www.youtube.com/watch?v=1HXV3DOVtvU&feature=share
〜thich nhat hanh movie〜 ティク・ナット・ハン師のお弟子さん達によるチャンティング 〜生演奏〜

ティク・ナット・ハン&プラムヴィレッジ僧侶団来日ツアー2015」振り返り映像です。
https://www.youtube.com/watch?v=hecw3976LlU
4月10日用映像



追記
非常に稀だが、放送されたばかりの同番組が総合テレビ・深夜帯でアンコール放送となる。

しかも高弟らの日本ツアーの最終盤にあたる時期であり、作為的なものだろう。

2夜連続!Eテレ「こころの時代」アンコール

こころの時代・選 禅僧ティク・ナット・ハン 第一回「怒りの炎を抱きしめる」
[総合]2015年5月7日(木) 午前2:45~午前3:45(60分)

こころの時代・選 禅僧ティク・ナット・ハン 第二回「ひとりひとりがブッダとなる」
[総合]2015年5月8日(金) 午前2:20~午前3:20(60分)


NHK日曜美術館 祈りのまなざし イコン画家・山下りんと東北

NHK日曜美術館
祈りのまなざし イコン画家・山下りんと東北
2015年3月8日 Eテレ

東日本大震災から4年。東北の地で、人々の心の支えとなってきた絵がある。描いたのは、山下りん(1857-1939)。明治時代、聖書の物語や聖人を描く“イコン”と呼ばれる聖像画に生涯をささげた女性画家だ。

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りんのイコンは、震災後の停電の中、教会でろうそくの明かりの下で過ごす信者たちを励ました。町が破壊されてしまった中、慣れ親しんだ姿でそこにあるイコンは、いまだ復興の途上にある人々の心のよりどころとなっている。

りんのイコンが飾られている日本の東方正教会・ハリストス正教会は、その4割近くが東北地方にある。明治時代、戊辰(ぼしん)戦争で敗北した旧東北諸藩の士族たちが、函館のロシア領事館付設の教会で信者となり、郷里にその信仰を広めたためだ。明治の近代化政策から遅れをとっていく東北の地に、新たな時代の光明をもたらしたいとの思いからだった。信者となった人々は、山から切り出した木材や石で建てた聖堂に、りんのイコンを迎え、祈りをささげてきた。どこか日本的な風貌をもつイコンは、誕生や収穫の喜びのときも、飢きんや災害のときも、人々に寄り添い、時を刻んできた。

りんの世界に強くひかれるという姜尚中さんが、東北を訪れ、山下りんのイコンが、今なぜ人々の心を捉えるのかを読み解く。

出演:姜尚中(政治学者/聖学院大学学長)

編集:村上安弘(株式会社キャバレット)
ディレクター:藤村奈保子


・NHKクロニクルで過去の放送番組を見ると次のように特集が組まれていた。

①日曜美術館 イコンにこめられた情熱 明治の女性画家 山下りん
 1986年12月14日
②新日曜美術館 イコンと生きる 山下りん・祈りの美
 2004年6月13日

明治期に西洋画を学び、縁あって正教に入信、ロシアに赴いて修道院でイコンの修得をするも西洋画を志したこととの葛藤があり帰国。その後、イコンを日本人のために書き始めて300点に上るものが現存する。日本人初のイコン画家である。

この番組では、特に東日本大震災の被災地が、山下りんのイコンがある東北地方に重なり、取り上げられた正教会は、津波の被害後に火災で焼失しイコンもなくなった。ただ信者にとっては、信仰の拠り所としてイコンの存在があり、それほど被災地の信者には励ましを与えた。

イコンについては詳しくなかったが、過去のイコンを模して書くことが義務であり、書き手の個性を表す余地はない。この点で、画家としての心境とは大きく異なることは理解できる。彼女が葛藤の末に辿りついたのは、信仰が深まった故なのかは想像するしかない。

絵画の評価は私はできないが、ロシアのイコンと比べると表情があって明るい色調である。研究者によると一般的に光と影を象徴するためにイコンの濃淡がはっきりするらしいのだが、彼女のイコンは明るい。

番組では、教会風景や信者宅にもあるイコンを通して、信仰の風景と日常を描いていた。編集が優れており、一般的なドキュメンタリーのような凹凸がなくスムーズに構成されて、とても見やすいもので、これが芸術番組には相応しい。

以下に、ネット上で調べたものを記すがあくまでも芸術鑑賞用のものではなく、信仰上の対象物として捉えることが相応しい。彼女の生涯については、興味があれば調べてもらいたい。


盛ハリストス正教会
岩手県大船渡市盛町字町1-2

山下りん聖像所蔵教会一覧表(日本正教会) http://www.orthodoxjapan.jp/seizou.html

KIRIN~美の巨人たち~山下りん -「ウラジーミルの聖母」(テレビ東京)
2005年12月24日放送分

山下りんと白凛居 (白凛居 山下りん記念館)
茨城県笠間市笠間1510番地
http://www010.upp.so-net.ne.jp/yamashita-rin/index.html

ETV特集 頑張るよりしょうがねえ~福島・南相馬 ある老夫婦の日々~

ETV特集 
頑張るよりしょうがねえ~福島・南相馬 ある老夫婦の日々~
2015年3月7日 Eテレ

東日本大震災から4年。若い世代を中心に人口が減り続ける被災地では、一気に高齢化が進み、近い将来にやってくる日本の超高齢社会を先取りした状況が生まれている。

そんななか、大きな問題となり始めているのが介護する側の人材不足だ。福島県南相馬市では、去年2月に大規模高齢者施設が開所したが、原発事故の影響で若い人々が急減したため、介護スタッフが集まらず、新規の入所希望者を受け入れられない非常事態が続いている。長引く避難生活で要介護となる高齢者が急増しているが、施設はどこも満床で、常に200人、300人待ちの状態。町は、行き場のない高齢者であふれている。

追い詰められた老人が、みずからに言い聞かせるように、つぶやく。
「頑張るより、しょうがねえ」。
はいかいを繰り返す認知症の夫を、仮設住宅で介護し続ける妻。
歩けなくなった妻のために、津波で流された自宅の再建に奔走する夫。

番組では、日に日に追い詰められてゆく介護現場の実態を伝えるとともに、震災後の福島で始まった介護予防の新たな取り組みを紹介しながら、逆境の中、なんとか希望を失わずに前を向いて生きようとする人々の姿を描く。

NHK名古屋放送局制作
語り:國村隼
ディレクター:梅内庸平


・59分構成。

2014年2月から取材を開始。86歳と85歳の妻。借り上げ住宅で生活をしているときに妻が転倒し腰痛が悪化し入院へ。次男は津波で死亡。妻は震災後に鬱病も発症。長男はすでに事故死していた。

夫は、退院後の生活に不安を覚えていた折に近所にある老人保健施設がベットを増やした。ところがフタッフが人手不足で入所できない。施設はあっても入所できないという状況が被災地ではある。

夫は新築バリアフリーの住宅を作る決心をした。2014年3月退院し借り上げ住宅に戻る。新居が完成するまでの半年はそこで生活する。人手不足で訪問介護ヘルパーも一日朝昼の二回しか来てもらえない。ヘルパーの来ない時間の介護は夫。

2014年4月。妻は、スタッフの補充ができ申し込んでから2か月して施設入所ができた。同時期に新築住宅の建設が始まった。2014年9月。住宅需要の増加で人手不足、建築の作業が予定通り進まない。

2014年9月、施設で妻の容態が急変し死亡。

2015年1月。新居完成。

以上が時系列に構成された内容である。

番宣を読んで展開を考えることはできなかったが、見はじめてハッピーエンドはないと直感した。その通り、妻は施設で亡くなり新居で生活することはできなかった。

番組で訪問リハビリ事業所の取り組みを通して介護予防の重要性を入れたが、何か希望を入れようとした感が強い。

とても残念なのは、施設入所後の妻の様子が分からないことで急に亡くなった理由もはっきり伝わらなかった。後半部が一気に進んでしまい、夫の心の動きが印象だけになってしまった。

私が思うには、借り上げ住宅の在宅介護期間も少しで施設入所でき妻も重篤な医療を必要としていない点から非常に上手く進んだ事例であると感じる。

そして夫の過去については全く知らされなかった。いったいどのような生活をして来たのか、それが分からないと、なぜ全財産を使って86歳になって新築の家を作る理由が肉付けされない。

予想していたのは在宅介護に悪戦苦闘する夫の姿を通して、被災地における介護環境の悪化を伝えたいのかと思ったが、一人の男の信念、生き方を描いたものだった。ならば、もっと夫に焦点をあて肉薄する必要があったように感じる。

妻が亡くなり希望がないと呟いていた夫だが、半年もすると次のことを考えている。一方で、妻は津波で子どもを亡くし、外見からもウツの様相を示していた。震災という未曽有の事態を経ても、人は受け止め方や考え方の違いで生きることができるのだろう。

亡くなった子どもたちには家族もあり、嫁や孫との交流もあったはずであるが、それが全く描かれなかった。夫と妻だけの生活ではなかった気がするのだが・・・。そして新築の家も相続され全く無駄になるわけではないだろう。新築の住宅を遠望し番組は終わったが、ものさびしい終わり方だ。


ディレクタ- 後記
【取材記】「頑張るよりしょうがねえ」桑折さんその後。
2015年03月21日 NHKハートネット

テレメンタリ―2015「トイレで世界を救え」

テレメンタリ―2015「トイレで世界を救え」
2015年3月9日放送 テレビ朝日(2015年3月14日放送 名古屋テレビ)

電気も水も通っていない南米・ペルーの砂漠に、日本の町工場が手掛けたトイレが設置された。富士山の環境問題の解決に一役買ったと言われる技術が、途上国の衛生環境の改善を担い海を渡る。日本のトイレはペルーに受け入れられるのか。一大プロジェクトに挑むのは、大分市のトイレメーカーの2代目社長。慣れない土地でのトラブルや、言葉の壁を乗り越え、現地で奮闘する姿を追う。

制作:OAB大分朝日放送
ナレーション:佐脇佳子
ディレクター:河崎元成
プロデューサー:家長宗久


・国際協力ODA援助で、日本のトイレ技術製品がペルーに供与された。そのバイオトイレを製造した大分県の企業社長の活動を通して、環境・衛生問題や日本の地方の技術力を示すドキュメントとなる。

その画期的なトイレは、以下にあるように富士山でも採用され環境負荷の少ない工夫がされており、それが今回、ODA事業として採用されペルーに16基運ばれて社長が現地で設置・使用法の指導をしている風景を撮影した。

トイレ問題は、例えば観光地に行って不便を感じることは日本では稀であろう。日本では登山とか設置が難しいところで感じられる問題になった。ただ世界的にはトイレの普及率は低いところも依然として多く、例えばインドのように衛生状態悪化のための感染症で命を失うことが大きな問題となっている上に、夜中に外でようをたすためにレイプ事件のようなことも起きている。

私も以前は家の外に設置されているトイレが普通であったし当たり前のことだった。海外ではトイレすらない、また汚くて使えないために道端、草陰ですることは今でも当たり前のことである。

ペルー取材は大使館が協力とクレジットされており、取材クルーも慣れない外国で苦労したかもしれない。ペルーと聞いて、フジモリ元大統領と大使館人質事件を鮮明に思い出した。日本とのつながりの深い国だけに、今のペルーの話も知りたいところだが話が拡がり過ぎる。

この話だが日本人としてより地方の一企業の努力という捉え方がいいだろうし、日本の物作りの伝統が活かされた例としても数多ある成功例の一つとなるのだろう。

構成は至極シンプルであり青年社長の活動を描いている。これがNHKプロフェッショナルやTBS情熱大陸のようなカラーに構成するとどうなるか考えてみると面白い。

個人的には世界のトイレ問題について詳しく掘り下げてほしいところであるが、私も過去に調べた時に有用な調査データがないことが分かり実証することはなかなか困難であることは理解している。それほどトイレ問題は当たり前のことであり日本は稀にみる状態なのだ。

こうしたODA援助が、日本の印象を良いものにし平和貢献になることが、立派な軍隊を整備するよりも効果があることを知らせてもらいたい。


株式会社ミカサ  http://mikalet.jp/


20150314.jpg
2014年8月5日 日刊工業新聞


参考 こちらは九州・沖縄のTBS系列局制作番組

世界一の九州が始まる「世界を射程!トイレ革命」
2014年8月17日放送分
http://www.e-jnn.com/sekakyu/home/contents/2014/20140817

昨年、世界遺産に登録された富士山。実は10数年前まで、山小屋などのトイレでは「し尿」を溜めておき登山シーズン終了後に「垂れ流す」という方法がとられており、環境面で大きな課題となっていた。その状況を一変させたのが、し尿を燃焼して処理をするトイレ「ミカレット」である。1000回使用しても出る灰は、わずか数100グラムという、処理能力に優れた「ミカレット」が年間約30万人の登山客が利用する富士山の「トイレ問題」を解決して、世界遺産登録への大きな後押しとなったのだ。製作するのは、大分県大分市にある「株式会社ミカサ」という従業員8人の小さな会社だが、社長の三笠大志さん(35)は、「やるからには日本の美しい自然を守るために」という志でトイレの開発に取り組んでいる。そして、燃焼式トイレの次に手掛けたのが、微生物の力でし尿を分解して処理をする、「バイオトイレ」だ。さらにソーラーパネルを組合わせることで、燃料や電気、水道のない場所にも設置可能な「完全独立型トイレ」の開発にも成功した。
発展途上国をはじめ、トイレは世界中に需要があると考える三笠さん。大分から富士山、そして世界へ。歩みを止めないミカサのトイレ革命に迫る!


NHK金曜eye「単身高齢社会 “ひとり死”への備え あなたは」

金曜eye『単身高齢社会 “ひとり死”への備え あなたは』
 2015年1月30日(金)【総合】午後7時30分~午後8時43分(関東甲信越)
<再放送>
 2015年1月31日(土)【総合】午前10時5分~11時18分(関東甲信越)
<再々放送>
 2015年2月24日(火)【総合】午前2時15分~午前3時28分(全国放送)

超高齢社会に突入した日本。特に顕著なのが単身高齢者の増加です。今年600万人を超え、2035年には762万人にのぼると言われています。都心部では高齢世帯の44%が“おひとりさま”です。

孤独死への不安も高まりますが、そうした中、「ひとりでも、誰かに頼ることなく、自らの生は自らの責任で閉じていきたい」と前向きに準備を始めた人々がいます。“孤独死”ではなく、自ら準備し望んだかたちで最期の時を迎えようという“ひとり死”。介護期、終末期、死後における様々なことを、全て自分で決め、最期は身内ではなくNPOに託すのです。意外にも、“ひとり死”を決めたことで不安が和らぎ、残りの人生を前向きに歩めるようになるといいます。こうした個人の思いを大切にし、在宅での“ひとり死”を実現しようと医療や介護の現場でも取り組みが始まりました。

番組では「ひとり死」を選択した人々や支える現場を密着ルポ。たとえひとりになっても安心して最期を迎えるにはどうしたらいいか、個人と社会のあるべき姿、必要な仕組みや制度を考えていきます。

【キャスター】斉藤孝信アナウンサー
【出演者】周防正行(映画監督)渡辺えり(女優 演出家)小谷みどり(第一生命経済研究所研究員)小笠原文雄(医師)



【番組内で紹介した人、団体について】 http://www.nhk.or.jp/shutoken/eye/20150130.html

(1)生前と死後のサポートをするNPO
■特定非営利活動法人「NPOりすシステム(LiSS = リビング・サポート・システム)」
 ※番組では「単身高齢者をサポートする」とご紹介しましたが、単身や高齢者でなくても、利用することができます。NPOとは公正証書に基づく契約を交わします。全国に会員が2700人。

 事務所:東京都千代田区九段北1丁目10番1-201
 電話:03-3511-3277
 E-mail:liss-system@seizenkeiyaku.org
 ホームページ:http://www.seizenkeiyaku.org

【サポートの内容 ※主に3つです】
 ●生きているときのサポート(生前事務契約)
 病院に入院するときの保証/手術の立ち会い/有料老人ホームに入居するときの契約の代理、保証、身元引受/公営住宅に入居するときの緊急連絡先となる/老人ホーム探しの情報提供や契約/介護認定の立ち会いや、介護契約の代理/外出時のつき添い/買い物の同行/(老人ホームへ入居するときの)引っ越し/安否確認(見守りセンサー、訪問、電話など)

 ※契約者には、自宅に警備会社のセンサーをとりつけてもらい、自宅で倒れてもNPOに連絡がいく体制になっています。VTR中でご紹介した吉川さんは、このセンサーで、死後24時間以内に発見されました。

 ●任意後見事務
 認知症などで自己の判断能力が不十分になった場合、任意後見人となり、契約書や本人の意思にしたがい、医療、介護、財産管理などを行う。

 ●死後のサポート(死後事務)
 葬儀や納骨/死亡届などの行政手続き/電気、ガス、水道などの停止手続き/各種カードの解約/インターネットや携帯電話などのデータ消去/部屋の片づけ、不用品の処分/ペットの処遇/親族や友人などへの死亡通知/死後の念忌法要や墓参り

 【費用について】
 死後のサポートのみ50万円~ 生前のサポート含む100万円~
 (※契約するサービス、利用するサポートによっては、それ以外にその都度料金がかかります)

 【事務所の所在地】
 東京、札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、松山、福岡、大分
 ★毎月一回(10日前後)に説明会を実施しています。
 ★こうしたサービスを提供している団体は他にもいくつかあります。

(2)自宅での“ひとり死”支える取り組みについて(在宅医療について)
■小笠原文雄(おがさわら・ぶんゆう)さん(小笠原内科院長 日本在宅ホスピス協会会長)
  〒500-8458 岐阜県岐阜市加納村松町3-3
  電話:058-273-5250
  FAX:058-273-6063

●在宅医療について詳しくは「日本在宅ホスピス協会」ホームページをご覧ください。
  ホームページ:http://sky.geocities.jp/nihonnzaitakuhospice/

●また、近くの在宅医をお探しの方は同協会の下記ホームページをご参照ください。
  ホームページ:http://www.homehospice.jp/

●このほか、近くの訪問看護ステーションにお問い合わせされると詳細情報がわかる場合があります(各自治体でも情報が得られる可能性があります)

(3)常盤平団地自治会/NPO法人 孤独死ゼロ研究会
  住所:〒270-2261 千葉県松戸市常盤平3-27-2
  電話:047-388-9367
  FAX:047-388-9966
  担当:中沢卓実さん(理事長)
●希望者には「終活ノート」を郵送してくれます


・73分構成。この番組は、NHKが関東甲信越向けに放送している金曜eyeという番組で、年間に8本程度制作している。反響のあるものをエリアを広げて再放送することもあるようであるが滅多にない。

内容が重要だけに、まず関東甲信越エリアで再放送し全国放送になった。しかし放送時間帯が何と深夜午前2:15~午前3:30というトンデモナイ時間だった。たまたまテレビをつけたら放送しており早速調べたわけだ。

番組のホームページには、詳細ページがあり番組で取り上げられた情報のフォローをしている。NHKの情報番組では、このような情報公開をしている場合があり、NHKへの個別の視聴者問い合わせから考えて予め出しているともいえる。

もし心あるならば土曜日・日曜日午後の時間帯に設定するべきだろう。なぜ、この番組が有効かといえば、単身高齢者が今後とも増えることが予想され、このようなサービスに関する情報が求められるからだ。

ひとり死を希望する人たちは確実に増加するだろう。それは昨今の人間関係の希薄化を高齢者たちが大きく意識しているからだ。番組構成は、生前・死後サポートNPOとの契約、在宅での看取り医療、終活ノートを使っての地域実践のリポートを挟んで、ゲストのおしゃべりとなる。

小笠原医師は、「トータルヘルスプランナー」という専門的役割に全体のコーディネイトをベテランの看護師に担わせているという。こうした名称は初めて聞いた。

実はケアプランを作るケアマネジャーというのが、介護保険制度上のコーディネイトの役割をすることが求められている。だが実際にはケアマネジャーの基礎能力不足や経験不足など、他の医療職や福祉職をまとめられる力量はない。

誰かが中心にならないと組織を動かすことはできない。その司令塔を決めることが重要であり、それはケアマネであろうと、訪問看護師であろうと医師であろうと構わないのだ。

申し訳ないが、渡辺えり氏のくだらない会話は必要ないと感じる。人選は必要だろう。タレントがアナウンサーの充足をすることはできないだろう。

個人的に最期のスケジュールを体験したので、このような全ての取り組みは大事なこと。特に家族や地域の協力が得られない状況がどんどん進行するなかで単身高齢者の不安は大きいと言える。結局は誰かにお世話にならないといけないことは事実だろう。


関連 小笠原医師の活動

在宅とモルヒネ(上)笑顔で生きるために
2015年3月24日 中日新聞

息苦しさも緩和、中毒なし
 がんの痛みを抑える医療用麻薬「モルヒネ」を在宅でも早めに取り入れ、患者の生活の質(QOL)の維持、向上を目指す動きが広まりつつある。ただ、患者や家族には「中毒になる」「死期を早める」などの誤解も多く、先進国の中でも日本の消費量は少ない。在宅医療でモルヒネを積極的に使っている医療者や患者の今を伝える。(山本真嗣)

 今月中旬、末期の肺がんを患う愛知県尾張地方の女性(90)は、容器の中のルビー色の液体をスポイトでキャップに取り、ひと息で飲んだ。モルヒネと赤ワイン、シロップなどを混ぜた「モルヒネワイン」。15キロ離れた岐阜市から訪問診療に通う小笠原内科の小笠原文雄さん(66)の処方で、呼吸困難の出始めた昨年6月から飲み続けている。

 モルヒネは主にがんの痛みを抑えるために使われるが、息苦しさを和らげる効果もあるという。1回につき2ミリグラムを服用。朝と呼吸が苦しいときに飲む。「甘くて飲みやすい。呼吸が楽になるし、せきも止まる」。女性は1年半前に肺がんが判明。既に肺全体に広がっていた。入院治療ではなく、娘や孫のいる自宅療養を選び、実績のある小笠原内科を受診した。

 当初はせきが止まらず苦しかった。今はモルヒネのおかげで苦痛はほとんどない。家族と食事をし、天気の良い日は庭の手入れや散歩するのが楽しみという。

 日本在宅ホスピス協会長で長年、医療用麻薬を使った在宅緩和ケアに力を入れる小笠原さんは「まず苦痛を取り除き、笑顔で生きることが在宅緩和ケアの大前提。モルヒネは不可欠」と指摘。「亡くなる直前にだけ使うのではない。生きるために使うんです」

 ただ、患者や家族にはモルヒネへの誤解が根強く、女性も当初不安がった。苦痛が取れること、医師が苦痛の治療に使う場合は中毒にはならないこと、苦痛を我慢するのは体に良くないことなど、医師や看護師らが丁寧に説明を繰り返した。モルヒネワインも悪いイメージを払拭(ふっしょく)し、飲みやすくするためのアイデア。資格を持った薬剤師が作る。

 「苦しいと思ったら、迷わず飲んで」。小笠原さんは訪問のたびに念を押す。月2回の訪問診療の際、医師が20~30回分を処方する。1日に使う上限はあえて指示しない。「上限があると、苦しいときに我慢する。不安が苦痛を増強する」。女性が記録した服用日時や回数などを参考に必要量を判断。苦痛が取り切れなければ、増量する。

 課題は地元で連携する薬局や、緊急時にすぐに駆けつけられる医師の確保。医療用麻薬を処方したり、薬局が保管したりするには麻薬取締法に基づく免許が必要だ。しかし、近くに十分対応できる薬局はなく、家族が岐阜市まで受け取りに行く。小笠原さんは「吐き気や便秘などの副作用への対応や服薬指導も含め、定期的に訪問してもらえる薬局があれば」と話す。

対応できる医療者少なく
 国立長寿医療研究センター緩和ケア診療部の西川満則さん(49)は、医療用麻薬の現状について、患者の症状に応じた増減量や麻薬の在庫管理も含め、「地域で十分に対応できる医療者や薬局は、まだ少ない」と指摘する。

 国は2007年施行のがん対策基本法で、早期からの緩和医療の実施を盛り込んだ。翌年、モルヒネの1回の処方日数を従来の14日から最長30日に延長。決められた方式に基づき、がんの苦痛の治療と医療用麻薬を処方した場合の診療報酬も加算した。

医療用麻薬の消費量
 愛知県によると、医療用麻薬を取り扱える県内の薬局は現在、2335店(74%)で、5年で4割増えた。厚生労働省は全国の医療者を対象に、医療用麻薬の使い方講習会を開くなどしている。しかし、患者の症状が悪化したとき、増量するのをためらう医師や、必要な麻薬をそろえていない薬局は少なくない。実際、08?10年の日本の医療用麻薬の消費量(100万人1日当たり)は米国の16分の1にとどまる。

 日本在宅ホスピス協会はホームページで、モルヒネを使った緩和ケアができる会員の医療機関を表示(「末期がんの方の在宅ケアデータベース」で検索)。薬局のデータベース(「在宅緩和ケア対応薬局データベース」で検索)作りも進んでいる。西川さんは「病院の主治医や看護師、医療ソーシャルワーカーらに相談してほしい」と話す。

 モルヒネ アヘンに含まれる化合物で、依存性があり、使用が厳しく制限される麻薬の一つ。痛みの信号が脊髄や大脳に伝わるのを抑える。世界保健機関の提唱する方法に従って、痛みの治療に使う場合は依存や中毒にはならないとされる。痛みや症状によって飲み薬や貼り薬、注射薬などを使い分ける。医療用麻薬には、モルヒネと同じ作用のあるオキシコドンやフェンタニルなどがある。


落語:与太郎戦記~戦場にかける恋(春風亭柳昇)

日本の話芸~珠玉の名演セレクション~-第二日-
2012年1月1日 NHK

これまで放送した番組の中から、五代目春風亭柳昇の落語「与太郎戦記 戦場にかける恋」と、二代目神田山陽の講談「名人小団治」を再放送する。

「日本の話芸」が始まって、ことしで20年。これまで数々の名演をお届けしてきた。そこで今回は、その中から、五代目春風亭柳昇の落語「与太郎戦記 戦場にかける恋」と、二代目神田山陽の講談「名人小団治」をアンコール放送する。


・NHK-Eテレで放送されている日本の話芸において、過去に放送されたものに「春風亭柳昇 与太郎戦記」があり録画を残してある。

個人的に柳昇師匠の創作落語が好きで何度も同じ話を聞きながら、話芸を堪能している。師匠のとぼけた風采と話し方は気持ちを和ませるとともに、粋な面持ちを感じさせる。

この与太郎戦記は、師匠の創作落語のなかでも異質さを放つ。それは自身の従軍記をもとにしたもので、戦争の日常を面白おかしく語ると共に、戦友の死や窮地に陥った状況を淡々と語っていく。じ~んと感じるのは、それが事実に基づいているからだろう。

師匠にとっては、戦争体験は負のものではなく戦争に対する批判は全く感じられない。その時代の多くの人たちの持つような純朴な使命感を持って、お国のために一旗揚げるという雰囲気を持っている。

ただ戦争末期になってくると戦争のもつ矛盾が露呈し、多大な物量を誇る敵国に手向かうこともできず逃げ惑うような軍隊行動もきちんと入っている。

インテリの多くは戦争に矛盾を感じながら従軍経験も少なく亡くなっていったのだろうが、師匠のような出世しても下士官にもなれない人たちとは思いは少し異なるのだろう。

話のなかで、死ぬことは怖くないが死に際に勇敢であったことを家族に伝えてほしい、そして国のために死ぬことを誇りに思うことに矛盾はなかったようだ。それは多くの兵士の心情だったのではないか。

師匠が負傷し入院した病院で看護婦に恋をして歌を送ったというあたり、創作っぽい点もあるだろうが純朴な感じがする。

少しネットで調べて、この落語の一部にもなった師匠の従軍記が書籍化されていること、またフランキー堺による映画化、また民放ドラマ化されていたという情報も知った。

興味ある方は文庫化されているものをご覧頂きたい。なお、この落語そのものはインターネット動画サイトで見ることは可能だが、NHK放送の音声部分を使用しており、高座風景は入っていない。


春風亭 柳昇 著   筑摩書房刊

与太郎戦記 (ちくま文庫) 2005/2/9
陸軍落語兵 (ちくま文庫) 2008/5/8
与太郎戦記ああ戦友 (ちくま文庫) 2011/2/8


春風亭 柳昇
 1920年東京生まれ。本名秋本安雄。第二次世界大戦に陸軍歩兵として従軍。六代目春風亭柳橋の長男と戦友だった縁で、復員後の1946年入門。柳之助で前座。二つ目昇進で柳昇。1958年真打ち。出囃子は「お前とならば」。新作落語を得意とした。
 日本演芸家連合会長、落語芸術協会理事長などを歴任。1982年芸術祭優秀賞受賞、1990年勲四等瑞宝章受章。2003年6月、胃がんのため没。享年82歳


映画
与太郎戦記
 劇場公開日 1969年7月12日
  フランキー堺、南美川洋子、水木正子、露口茂、春風亭柳橋、柳亭痴楽
続・与太郎戦記
 劇場公開日 1969年9月13日
  フランキー堺、伴淳三郎、若水ヤエ子、長谷川待子、南美川洋子
新・与太郎戦記
 劇場公開日 1969年12月27日
  フランキー堺、伴淳三郎、船越英二、南美川洋子、川口英樹
与太郎戦記女は幾万ありとても
 劇場公開日 1970年4月18日
  フランキー堺、長門勇、玉川良一、長谷川待子


参考  創作落語例

春風亭柳昇「課長の犬」


参考 DVD化

NHK DVD「日本の話芸」特撰集 -ことば一筋、話芸の名手たちの競演会- 落語編二

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販売元: NHKエンタープライズ
DVD発売日: 2006/11/23

 (十代目)桂文治 『禁酒番屋』
 三笑亭夢楽 『三方一両損』
 (五代目)春風亭柳昇 『与太郎戦記 戦場にかける恋』
 (二代目)桂文朝 『紙入れ』


映画「鳥」(ヒッチコック監督作品)

† パニック映画ということになるだろうか。随分久しぶりに見てみて、この映画が公開された当時のことを考えていた。ただ、なぜ鳥が大量発生し人を襲ったかについては一切の説明はない。鳥の群れになすすべもない人間の恐怖を描く。それが鳥でなく、例えば自分が嫌いな生物だったらかなりヤバイ状態に陥ることは確かだろう。

‡ この映画であるが、鳥が人間を襲うという筋にどのようなストーリーをつけるのかが問題だろう。出来上がった恋愛芝居は、無理に鳥と関連付けているとはいえいかにもである。それにCGや恐怖映画に慣れた世代にとって、この程度のことで驚くことはないだろう。

テレビドラマ「ぶらり信兵衛 道場破り」(高橋英樹主演)

・フジテレビ系列で放映されていた懐かしい時代劇ドラマを見ることにした。インターネット上で全50回のうち22回を無料視聴してみた。放送当時の記憶が残っているが主題歌がとても印象的だ。

このドラマはDVDで市販されていないが衛星放送専門チャンネルなどで再放送されたようだ。一部に時代に合わないセリフがあり少なからず音声がカットされており、放映時の状態で見られる状況にはないのが残念である。

登場する浜木綿子、渡辺篤史、葉山葉子など現在もテレビ界で活躍する役者はいる。ただ準レギュラー陣でも現在名前を聞かない人が多い。見ていない回も含めてゲストスター陣の質が高くて、当時の映画界の俳優陣の層の厚さがはっきりと見て取れる。

時代劇では異色とされる脚本で、高橋英樹主演の浪人役・松村信兵衛は道場破りを生業としながらも貧しい庶民と暮らすことを楽しむ、笑い哀しみと人情の深い内容となっている。そのために人を殺したりする時代劇とは一線を画する。

世の中の悪を退治するというような痛快な時代劇も見終わってスッとするには違いない。ただ見終わってじっと心が温かくなるようなものが求められているし、日本人にある人情をベースとしたものは深い共感をもたらす。

信兵衛は、長屋の店子たちがお金に困るとせっせと道場破りをして稼ぎ、彼らのために使う。他ドラマにあるような悪人を立てて、ぶった切ることもなく、ヒーローが登場してめでたしで終わることもない。

つまり日常に近い話題の中で、貧しい庶民が助け合って、泣き笑いしながら共に暮らしていくという中で、適度な距離感を保とうとする信兵衛は大人である。

そう大人の物語なのだ。長屋の噂を囃し立てるシーンでは軽快な音楽とともに日本人本来が抱く野次馬根性とともに何か役立つことはないかというお節介根性も垣間見られる。それが適度であれば心地いいし居心地が悪い訳ではない。

現代では、隣近所のつきあいが希薄になり問題があっても個人で抱え込んでしまってより厳しい状況に追い込まれている。プライバシーと集団の力のバランスをどう保つかという問題はもっとドラマのテーマとなってもいいのではないだろうか。

また貧しさと助け合いというテーマを描くには、現代人には遠くて近い江戸時代を描くことは親近感がある。

22作を見終わって、どれも水準以上の出来栄えであり、個人的にはゲストスターの違った側面が見られたことが収穫であった。そして根底に流れているのは弱い人間を応援する態度だろう。また劇中で語られるセリフには、人生に対する真面目な教訓が織り込まれており勉強にもなる。


ぶらり信兵衛 道場破り
原作:山本周五郎「人情裏長屋」
主題歌 ポニー・ジャックス「信兵衛長屋」(作曲:渡辺岳夫)
放送期間:1973年10月4日 - 1974年9月26日

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