カトリック教会の偽情報工作

カトリック教会の偽情報工作
2010年3月15日 ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ローマ・カトリック教会聖職者の未成年者への性犯罪事件は拡大し続けている。熱心なカトリック教会信者として知られているオーストリア国民議会の元議長だったアンドレアス・コール氏ですら、「教会は崩壊の危機に瀕している」と述べ、教会の現状に失望感を吐露しているほどだ。アイルランド教会、ドイツ教会、オランダ教会と共に、オーストリア教会でも聖職者の性犯罪問題が浮上してきた。同国でも連日、新たなケースが発覚している。
 そして遂に、世界11億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ法王べネディクト16世にも飛び火してきたのだ。同16世がドイツのミュンヘン大司教区の責任者時代(ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー時代)、教区所属の聖職者が未成年者へ性的虐待を犯したが、同聖職者を解雇せず、他の教区に移動させた。その聖職者は後日、再び性犯罪を犯している。ラッツィンガー大司教は性犯罪を犯した聖職者を処罰せず、人事異動させただけだったことが明らかになったのだ。
 べネディクト16世は「未成年者へ性犯罪を犯した聖職者に対し寛容は許されない」と主張し、性犯罪を犯した聖職者の再雇用を認めない方針を強調しているが、法王自身は過去、他の教区責任者と同様、所属聖職者の性犯罪を隠蔽してきたのだ。
 バチカン法王庁のロンバルディ報道官はメデイアの批判の矛先がローマ法王にまで達したことに危機感を抱き、「報道の自制」すら求め出しているほどだ。聖職者の性犯罪問題は教会の“本丸”に達したわけだ。
 オーストリア日刊紙クリア日曜日版には興味深い社説が掲載されていた。元編集局長のペーター・ラブル氏は「ローマ・カトリック教会は意図的に2つの偽情報を流してきた。一つは、性犯罪は社会でも起きている。聖職者も例外ではないという。事実はオーストリアの聖職者(約4200人)の性犯罪発生率は社会の平均発生率を大きく上回っている。もう一つは、聖職者の独身制とその性犯罪は無関係という見解だ。これも事実ではない。独身制を本当に堅持する聖職者は少ない」と指摘している。
 同国教会最高指導者、シェーンボルン枢機卿は当初、「聖職者の性犯罪とその独身制は無関係だ」と主張したが、聖職者の性犯罪が拡大してきた今日、「(問題の解決のためには)独身制も議題の一つに含まれる」と、その見解を修正してきている。
 教会の偽情報工作で聖職者の性犯罪問題が解決できるわけではない。ラッツィンガー大司教と同様、教会指導者はこれまで所属聖職者の性犯罪が公になることを避け、隠蔽してきたのだ。
 カトリック教会は上から下まで刷新しなければ、もはやその使命を果たすことは出来なくなるだろう。



・この記事にはいろいろな要素が含まれていて、それぞれに興味深い内容である。
わたしが注目したのは、「法王自身は過去、他の教区責任者と同様、所属聖職者の性犯罪を隠蔽してきたのだ」という箇所で、大司教時代の性犯罪聖職者を人事異動させただけで、その男が再犯をおかしていたという事実にある。隠蔽ということばが適切かはさておくとして、問題社員を飛ばすといった感覚で組織を運営していることと宗教家という高い自覚を持つものとしての見識の問題である。それは、結果として各地の組織で行われていたことであり、問題にして解決するという姿勢よりも、不問にして責任を回避したと受け取られても仕方ないだろう。
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