[書評]『寺院消滅――失われる「地方」と「宗教」』

[書評]『寺院消滅――失われる「地方」と「宗教」』(鵜飼秀徳 著 日経BP社)
鵜飼秀徳 著
2015年06月25日 WEBRONZA 松澤 隆

まさに諸行無常、ただしそれだけではない  

 5万2000と7万7000。全国のコンビニエンスストアと仏教寺院の数。「われわれはコンビニほど、寺を必要としているだろうか」。

 これが、本書を貫く著者の問いだ。現代仏教の実情を通して、日本社会の急所を突いた一冊。

 4章から成り、1章は「地方から寺と墓が消える」、2章は「住職たちの挑戦」、3章は「宗教崩壊の歴史を振り返る」、4章は「仏教教団の調査報告」。
 書名と副題から多くの読者が予想し、また、1974年生まれの元「報知新聞」記者で現役の「日経ビジネス」記者という著者の経歴から期待するような内容は、おそらく1章と4章だろう。

 過疎と高齢化は、あらゆる寺と檀家の関係に容赦ない。

 「跡取りがいない」「副業なしで食えない」という住職、「墓さえあれば寺も住職も要らない」という住民。経営と自足。各地で人間臭い本音がこだまする。

 島根県の山間部、長崎県の島嶼部のような世界遺産(と候補)を近くに擁する風光の地も、例外でない。

 また、文字通り瞬時に《消滅》した寺もある。岩手県陸前高田市。しかし、葬礼は残る。多くの死者を弔ったのは寺としての面目。ところが、被災地での本堂再建には、「政教分離」の厚い壁と、供養料の低額固定化という生々しい経済原理がのしかかる。

 本書執筆のきっかけが、2014年に日本創成会議が発表した「消滅可能性都市」と聞けば、著者の問題意識、取材の方向に共感が深まる。「都市が消滅するのに、寺や神社だけが生き残ることはあり得ない」という識者(石井研士國學院大学教授)の発言も、取材から引き出される。

 「消滅可能性都市」に存在する宗教法人数は、6万3000弱。試算では2040年までに35%が「消滅可能性寺院」になるそうだ。冒頭に挙げた7万7000の寺院のうち、住職がいない「無住寺院」は、宗派を超えておよそ2万、すでに宗教活動を停止した「不活動寺院」は2000以上あるという。

 各宗派の本部がテコ入れすればと、つい思う。ところが、「資金援助したり、後継者の面倒を見たりするようなことは不可能」(戸松義晴全日本仏教会元事務総長)。なぜなら、個々の寺院は個別の宗教法人格を持つので、宗門本部は「調査、指導、監督はできても『直接関与』はできない」。結果、滅びを待つか、危ない団体に悪用される。

 本書の読みどころは、こうした、経済記者らしい周到なルポだけではない。実は、著者自身が仏門の出なのだ(実家は京都の寺とか)。その《仏教者としての反省と模索》が、2章と3章。苦く、真剣な自問自答が、聞こえてくる。

 近現代に、転機が2度あった。まず、明治の廃仏毀釈。某国の原理主義にも似た仏像破壊の凄まじさ(逆に、昭和の戦争まで続く従軍僧など各宗門挙げての戦争協力)。そうした「負」の宗教史に僧侶は背を向けるなと、著者はいう。

 一方、政策としての妻帯・肉食が「葬式仏教」を推進したと指摘。今や住職の求婚問題は深刻だが、その裏にある、女性軽視にどう向き合うのか。古都の有名な尼寺ですら尼僧不足が深刻。ここにも、《消滅》の遠因がある。

 2度目の転機は、敗戦後の農地改革。改革は、「地主」でもあった日本中の多くの寺から広大な土地を奪った。その正否を論じることは、著者はしていない。ただ「小作人の寺に対する積年の恨み」と、書く。中には土地を失い「ショックで自殺した」住職も出た。

 その結果、「現在、深刻になっている兼務住職の問題、空き寺問題は、農地改革が起因していることが多い」と報告する。高齢化・過疎化が進行する前の、《消滅》への重い序奏だ。

 そして、今。生き残りをかけて、遺骨を全国から「ゆうパック」で受けつける寺が、登場。火葬場で数分の「釜前読経」に積極的に応じる僧侶も、常態化した。人々が求める《コンビニエンス》に、仏教が順応したというべきか。

 そうした、いかにも今日的現象の一方で、一般人から伝統仏教に入信し、「感動できる葬儀をやりたい」と、一寺を起こした若き住職の格闘、あるいは、東証一部上場会社役員を退任後に得度して、孫ほど年齢差のある指導僧から怒鳴られつつ修行を終え、無住寺院を一般人向け研修センターに変貌させた元企業人の軌跡も、紹介される。

 かくして著者は、吐露するのだ。《消滅》は「結局は僧侶が寺という『安全地帯』にとどまりながら、自分磨きを怠っていることに起因するのではないか」。

 巻末には、キリスト教徒・佐藤優氏の「解説」。こちらも秀逸である。


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