「献体」希望が高齢化で増加…「火葬費を負担してくれる」の声、終活ブームも

「献体」希望が高齢化で増加…「火葬費を負担してくれる」の声、終活ブームも
2015年5月1日 産経新聞

 死後に自らの体を大学の医・歯学部に提供する「献体」を希望する高齢者が増えている。専門団体によると、献体希望者の全国累計は10年前から6万人以上増えた約26万人(昨年3月時点)で、高齢者の増加が数を押し上げたとみられている。解剖に対する抵抗感の薄れや死生観の変化、終活ブームといった時代の流れが要因とされるが、「火葬費用などを大学が負担してくれる」とする希望者も目立つといい、経済的に厳しい状況にある高齢者の現実も浮かび上がる。

 「家族に迷惑を掛けたくない」

 近畿大医学部(大阪府大阪狭山市)の献体受け付け窓口には数年前からこんな申し出が増えたという。毎年百人程度が新規登録し、登録者は今年4月時点で累計約2200人に上る。

 献体運動を推進する公益財団法人「日本篤志献体協会」(東京)によると、統計を取り始めた昭和45年度の登録者は約1万人。当時は全国の医・歯学部の解剖で必要な数を満たすことはできず、引き取り手のない身元不明者の遺体を活用するなどしていたという。

 だが、その後は時代とともに数は増加。同協会によると、平成元年度に10万人を突破し、26年度に26万人を超えた。要因は、昭和58年に献体に関する法整備がなされ、認知度が高まった。さらに、臓器移植の普及で解剖への抵抗感が薄れた▽阪神大震災や東日本大震災を経験し、自分の最期を自らの意思で決めようという人が増えたーなどが考えられるという。

 統計はないものの高齢者の増加が目立つといい、葬儀費用などへの不安を理由に挙げる人が少なくないという。献体登録をすれば、死後、遺体の搬送費用や火葬費用は大学側が負担する。遺骨を引き受ける先がない場合は、共同墓地などへの納骨も行うからだ。

 奈良県立医科大(同県橿原市)では昨年度、過去10年で最多の約90人が新規登録。火葬後の遺骨を高野山に納骨することも可能で、「そういった最期を希望される方も少なくない」(同大担当者)という。

 日本篤志献体協会理事で杏林大の松村讓兒教授は、過去に海外で献体をめぐり、遺体が売買されたケースを念頭に、献体は見返りを求めるものではないとして、「福祉の代行になってはならない」と指摘。医学の発展のため献体するという制度の趣旨の理解を求めている。

家族に迷惑かけたくない
 献体増加の背景にあるとみられる死生観の変化。多様化する“死”は、さまざまなシーンに現れている。

 葬儀では、近親者だけで執り行う「家族葬」が、核家族化が進む都市部で主流となりつつある。通夜・告別式を行わず、火葬場で荼(だ)毘(び)に付すだけの「直葬」は費用が安く、故人が生前に強く希望するケースが少なくない。樹木を墓石の代わりとして埋葬する「樹木葬」も、死後に自然に回帰できるスタイルとして人気を集めている。

 葬儀の簡素化ととれるが、神戸医療福祉大学の近藤勉教授(高齢者心理)は「極力意味のない儀礼をやめ、家族への負担や迷惑を軽減することを美徳とする現代人の考えが見て取れる」と指摘。献体も含め、「生や死の形に執着しない人が増えた」という。

 「近年の『虚礼廃止』の傾向や、年金減額などの厳しい経済情勢も重なった」としながらも、自分の人生を見つめ直し、人生の終末に向けた準備を進める「終活」ブームの影響もあると分析。「終活は、よりよい最期を願う人にとってごく自然な考え。高齢者が献体を望むのも無理はないのだろう」としている。

《献体》解剖学教育などに役立てるため自らの遺体を提供する。生前に、医・歯学部がある大学や「白菊会」などの献体団体に申し込み、死亡すると、親族らの連絡を受けた大学側が遺体を引き取る。献体前に葬儀を済ませることも可能。遺骨が遺族に返還されるのは通常で1~2年、長い場合で3年以上かかることがある。


・時代は変わったものだと感じる。

記事の分析で論点は出ているので、これが時代の風景というべきのものなのだろう。ただ、それでは自分自身はどうするかということを、いつの時点で決めるのかということだけだ。

問題は、残された遺族の感情の処理まで考えてはいないことで、遺族の心の整理のあり方は、それぞれの家族の問題となるのだろう。

このブログでは、さまざまな葬送周辺の話題も取り上げてきて、それが市場として成長していく度に精神性がすっぽりと削ぎ落とされていくのを見てきた。それは結婚式と同様に、過剰な演出や形式だけのものに変化しイメージだけのものになる。その反動として、形式のない思いつきのような形態も起こってしまい、本来性がなくなってしまった。

結婚も葬儀も家族を中心に考えるべき営みなのだが、それが社会にもつながっており、相互承認することで長い関係を維持発展できるもの。つまり社会の一員としての自覚と責任を感じる場でもある。

その節目節目に大切なことが抜けてしまうことで、人間関係が変化せざるを得ない。少子高齢化という時代に、長い伝統を持った日本人が変わっていくことをどう考えるのか。

なお、これを書いている本人は儀礼が嫌いで苦手という立場で、アウトサイダーを自認しているため心苦しい感があるが、大勢の日本人がこれからどうなっていくのかは興味があるところである。


公益財団法人 日本篤志献体協会  http://www.kentai.or.jp/

岐阜大学医学部 献体に関するQ&A  http://www.med.gifu-u.ac.jp/kaibou/shitumon.html


違った視点では、このブログでも書いた医学部法医学(解剖学)教室の抱える問題だ。つまり、献体された遺体を解剖教育に活かすことができなければ意味がない。詳しいことは分からないが、解剖(正常解剖実習)を実際に体験しているのは医歯学部生だけではないかと思う。全国でも解剖できる医師は150人前後であると思う。

医療系には看護系や理学療法士などスタッフが多い、この学生らが授業で実際に解剖に立ち会えることはないのではないだろうか。通り一遍の教科書の知識で、器官の名称を必死に覚えるだけで肉体に対する生身の感覚を得られているのか疑問がある。

つまり献体数は増大しても医学教育のニーズが少なく要望に応えられない状態になるのではないだろうか。医学教育に資させるとは、モノとして扱われ切り刻まれていくことで厳粛なことだ。単に経済性や手軽さを目的として考えることは止めた方がいい。


「終活」事業は盛んだ。以下の記事は、産経新聞出版の宣伝であるが、いろいろなサービスが出てきている。ただ葬送は葬儀だけでなく、その後の煩雑な手続きや供養という長い時間と労力を必要とし、外部サービスで補えることは極限される。

葬送を考えることは、自分自身の終わり方、家族への配慮、社会への義理をどう調和させ、限られた予算の中で行うことになるのか。その根底となるのは、死生観であり宗教的な信念といいたいところであるが、そこまでいかずに終わってしまうのが残念である。


その時に着る「エンディングドレス」 自分らしい「死装束」で迎えたい
2015年3月31日 産経新聞

 いつか迎える「その時」に身につける「死装束」。20年前には想像もつかなかったような華やかなデザインの装束が広がっている。名づけて“エンディングドレス”。女性を中心に、問い合わせが増えている。

 ◆“晴れ着”で旅立つ
 「最期ぐらいはピンクの服でと、生前にご自身のドレスを選ばれる方と、大切な家族に最期のドレスとして贈られる方がいらっしゃいます」

 エンディングドレスの専門店「ファイナル・クチュール」(東京都、電話=03・6273・1224)。マンションの一室にシルクやオーガンジー(透明感ある生地)の気品のある美しいドレスが並び、オーナーの中田久子さん(76)がほほえみながら語る。

 自身の「終活」の一環として訪れる70、80代の女性たちの8割がピンクを選ぶという。自分の両親を「美しく送りたい」と願う50、60代の女性たちは白のドレスを選ぶ。

 「お母さまへの贈り物や、急逝されたご家族の方のために、白のドレスを選ぶ人が多いです」

 病院から死期を告げられ、「おしゃれだった母のために」と駆け込んできた娘さんがいた。

 「母娘で暮らしていて、お母さまは長く闘病で寝たきりだったようです。そこで『二重ガーゼの柔らかいもので“産着”のようにお母さまをくるむようにしては?』と提案しました。娘さんも『最後の親孝行ができました』と、とても喜んでくださいました」

 ◆終活ブームで
 エンディングドレスを扱う業者の多くは、平成12年から10年ほどの間に事業を立ち上げている。

 婦人服製造卸販売「ルーナ」(福岡県、(電)092・737・3930)は、19年から「さくらさくら」ブランドで死装束を扱っている。花の刺繍(ししゅう)やレース、ふんわりとした生地。ドレス、着物の両方があり、価格は約3万~27万円。代表の中野雅子さんは「薄い素材を重ねて美しく見えるような清潔感ある、フォーマルなものを用意しています。一番大切なのはお顔映り」と話す。

 死装束を扱うにあたり中野さんは、遺体への着付けやエンバーミング(遺体保存や化粧)などを学び、「おみおくりには、ふさわしい作法と尊厳を保つ輝ける正装が必要」と強く思ったという。

 「残念ながら、生前のお気に入りの服は実際着せられないことも多い。『ジーンズがいい』『趣味のフラダンスの衣装が好き』と希望されても、生前に似合うものが亡くなってからも似合うとはいえません。非日常でのおみおくりは、自然と遺族に死を受容させ、悲嘆からの早期回復にもつながります」

 死後、時間が経過すると遺体が「死後硬直」してしまい、普段の服を着せることが困難になるという現実がある。硬直した遺体を無理矢理に動かそうとすると、遺体を傷めてしまうことにもなりかねない。闘病生活で弱った皮膚から体液が染み出ることもある。目を背けてはいけない現実だ。

 ◆元気な頃の姿で
 死装束としてドレスを着ることのメリットの一つが、闘病や事故などによって細くなったり、傷ついたりした体を隠してくれるところにある。

 「肌の露出を少なく」「手術痕を目立たなくするような首周りのデザイン」「胸元にボリュームのあるレースをつけ、華奢(きゃしゃ)になった人でも元気な頃と変わらぬように」…。

 「天使服」のブランドでエンディングドレスを提案している「姉妹ソーイング」(秋田県、(電)0182・37・3581)の深田弘子さんは、ドレスを作る際の気遣いをそう話す。

 「ドレスに帽子を付けることで、“女性の命”ともいえる髪が、闘病や年齢によって細くなったとしても、表情がきれいにみえます」

 むくみがあってもはける靴下も用意されている。

 「ドレスの広がりが、一時の流行であるとはとらえていません。ドレスは『正装』であり、『故人を考えた必然性あるデザイン』なのです」と深田さんは考えている。



終活読本 ソナエ vol.8 2015年春号 (NIKKO MOOK)

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ムック: 111ページ
出版社: 産経新聞出版 (2015/3/13)



放送予定

クローズアップ現代 No.3649
増える献体 “死の現場”で何が
2015年5月12日 NHK総合

出演:橳島次郎(東京財団研究員)

遺体を医学部の解剖実習などのために提供する「献体」。解剖への抵抗感などから少なかった登録希望者がいま増え続けている。背景の一つが、人口減少が進むなかで深刻になっている墓の問題だ。大学の中には、献体した人の遺骨を納める納骨堂を用意しているところもある。このため墓の管理で家族に迷惑をかけたくないという人たちが献体を選ぶケースも出ている。医学への貢献という目的だけでない献体の増加に、関係者のとまどいも広がっている。一方、献体で死後のあり方を決めたことで人生が前向きに変わったという人もいる。献体希望者を追い、日本人の死生観や地域社会、家族意識の変化を見つめる。


タイトル変更
「私の遺体 提供します ~増える献体 それぞれの選択~」

・番組を視聴したが産経新聞のような視点は薄く、新しい生き方・生き甲斐を得たい人の決断というリポートになっていた。

題名の変更を見て分かるだろうが、「死の現場」から「私の遺体提供します」という凡そ題名に相応しくない変更も、内容を通してのものなのだろう。

ゲストの話は非常に単純で、献体の持つ社会貢献の意味づけが、本人や家族、周囲に比較的容易に理解されることで選択肢と選べる時代になった意識変化が要因という分析だろう。

むろん葬儀や墓の管理といった不安が根底にあるにしても、従前に比べて口にしても問題視されない時代になったのだろう。

愛媛大、東北大、香川大での取材があったが、ゲストが最後に話した、解剖された大学内の納骨堂での管理に関して、本当に大学敷地内に納骨堂がある大学ばかりなのだろうかという疑問は残った。

ただ社会貢献という問いをたてるならば、他にも様々な生き方はできるだろうし、献体必要数から見ても別の行動を考えることも必要なのではないだろうか。

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