年間10万件「遺言公正証書」 京都青酸殺人事件で浮かび上がった“虚実と怖さ”

年間10万件「遺言公正証書」 京都青酸殺人事件で浮かび上がった“虚実と怖さ”
2014年12月20日 産経新聞

 京都府向日市の無職、筧(かけひ)勇夫さん=当時(75)=が青酸化合物で殺害された事件で、殺人容疑で京都府警に逮捕され、12月10日に同罪で起訴された妻の千佐子被告(68)は、複数の交際男性に対し、自分に財産を遺贈するよう記載した「遺言公正証書」の作成を求めていた。実際に高齢男性との結婚を繰り返し、死別のたびに数千万円の遺産を譲り受けていたという。遺産を得る切り札として「法的信頼性の高い公正証書が利用された」(法曹関係者)形だが、“熟年婚”を目指す中高年の男性も、公正証書に関する知識だけは学んでいた方がよさそうだ。

■「遺産全部あげます」という遺言は珍しくない

 「家族以外の人に遺産を全部あげるという人は多くはないが、よく聞く話。遺贈先は、交際相手や後妻など女性が多い」

 相続を代行する民間資格「遺言執行士」の普及を進める「日本遺言執行士協会」を設立した司法書士、石田泉さん(58)は、こう明かす。

 今回の事件で千佐子被告は、結婚相談所を介して出会った高齢男性と交際、遺言公正証書の作成を持ちかけ、複数の相手から資産の遺贈を受けていた。遺族に公正証書のコピーを送り、正当な遺言であることを示す手段として公正証書を利用していたとされる。

 石田さんは今回の事件について「特殊な事例」と前置きした上で、「仮に男性側がだまされていたとしても、遺言書を書いた時点では本心であり、内容も本物となる。人の気持ちは移ろうものなので、何度も書き直せるよう手書きの遺言書をまず勧めるようにしている」と話す。

■公正証書の作成には本人が公証人に「意思表示」することが必要

 そもそも、手書きの遺言書と遺言公正証書はどう違うのか。

 遺言書は、詳しく分類すると、自筆証書▽公正証書▽秘密証書-の3パターンがある。

 自筆証書は、文字通り自らの手で書く手書きの遺言書だ。これは、いつでも書ける半面、形式が法的に整っていないと無効になる危険がある。

 これに対し公正証書は、公証役場にいる公証人が法的な観点から文案を作り、本人の了承を得て作成する遺言書で、形式的な不備の心配がなくなるなどのメリットがある。また、原本は公証役場でデータとともに二重保存されるため、紛失する心配もない。

 秘密証書は民法上の遺言書の一種で、公証人が立ち会うことで内容を誰にも知られずに作成できる。ただ、文面は本人しか確認できないため、自筆証書と同様、形式的に無効とされる危険性がある。

 遺言公正証書の作成には、基本的には遺言をする本人が、公証人に遺言内容を直接伝える必要がある。したがって、今回の事件で千佐子被告の交際相手などが「財産を遺贈します」という公正証書を作成していたならば、いずれも公証人の前でその通りの意思表示をしたということにほかならない。

■公正証書の作成、今年は10万件突破の見込み

 遺言公正証書は本来、自分が亡くなった後に遺産相続をめぐってトラブルが起きるのを防ぐことを主眼に作成されることが多い。法的に信頼できる公正証書の作成件数は少子高齢化を背景に年々増加しており、昨年は全国で計9万6020件が作成された。今年は統計を始めた昭和46年以降、初めて年間10万件を突破する見込みだ。

 今回の事件でクローズアップされた公正証書だが、実際に作成するにはどうしたらいいのか。

 まずは、全国に約300カ所ある公証役場で、公証人に相談する。公証人の多くは、かつて裁判官や検事を務めたベテランの法律家だ。公証役場へ連絡して出張してもらうことも出来る。相続人との関係や財産概要などが分かる資料を渡せば、公証人が3~7日ほどで作成する。友人など相続人以外の証人2人が立ち会う中で内容を最終確認し、完成させる。

 公正証書を作成する際には、相続人の数と相続財産の額に応じ、数万円かかる。出張してもらう場合は別途料金が必要になる。

 日本公証人連合会は「相続がスムーズに済むよう公正証書を利用してほしい」と呼びかけている。自筆証書を作成していても、最終的には公正証書を作成しておくことが好ましいようだ。

■“熟年婚”で避けた方がいい女性のタイプは…

 不幸にも愛する伴侶に先立たれた場合、自分も誰かに見とってもらいたいと願うのは自然な感情だ。そのために熟年婚をする人もいるが、再婚相手が遺産目当てだった場合は、不本意な結婚生活にもなりかねない。

 結婚相談所を20年以上経営する夫婦問題研究家の岡野あつこさん(60)は、「老い先の生活が不安な熟年女性の婚活は、基本的には財産目当て。それがイヤという高齢男性に結婚は無理」と言い切る。

 それでも、愛情より財産を優先する女性を避けたいのであれば、「資産全体の半分以上を欲しがる」「あえて遺言公正証書にこだわる」などのケースは注意すべきという。

 「自分はモテていると勘違いし、言われるがまま遺言を書いてしまう男性もいる。感情的になる前の冷静な自分のうちに、あらかじめ遺産相続について決めておくことも大事」とアドバイスする。

 熟年婚の現実は厳しそうだ。


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