NHKスペシャル 病の起源 第3集 うつ病 ~防衛本能がもたらす宿命~

NHKスペシャル 病の起源 第3集
うつ病 ~防衛本能がもたらす宿命~
2013年10月20日 NHK

人類が苦しむ病気を、進化の観点から追求する「病の起源」。シリーズ第3集は、働き盛りを襲い自殺に追い込むなど、深刻な社会問題になっている「うつ病」。世界の患者数は3億5千万人に達し、日本でもこの10年あまりで2倍に急増している。なぜ、私たちはうつ病になるのか?その秘密は、意外にも5億2千万年前に誕生した魚の研究から明らかになってきた。魚でもある条件を作ると、天敵から身を守るために備わった脳の「扁桃(へんとう)体」が暴走し、うつ状態になることが分かってきたのだ。さらに2億2千万年前に誕生した哺乳類は、扁桃体を暴走させる新たな要因を生みだしていた。群れを作り外敵から身を守る社会性を発達させたことが、孤独には弱くなりうつ病になりやすくなっていたのだ。そして700万年前に人類が誕生。脳を進化させたことで高度な知性が生まれ、文明社会への道を切り開いてきた。しかしこの繁栄は、皮肉にも人類がうつ病になる引き金を引いていた。文明社会によって社会が複雑化し、人間関係が一変したことが、扁桃体を暴走させ始めたのだ。
番組では、研究の最前線で明らかにされてきたうつ病の秘密に迫り、そして進化を手掛かりにして生まれた新たな治療法を紹介。人類の進化がもたらした光と影を浮き彫りにしていく。

ナビゲーター: 橋爪功(俳優)
ナレーター: 伊東敏恵
プロデューサー: 水沼真澄
ディレクター: 山本高穂


・ウツ病に関して、その起源を探る番組となった。扁桃体という古い脳に属する器官をめぐる功罪がウツ病の原因となっていると報道した。生物進化において獲得した保護回路が、過剰に反応することで起きるとするのが最近の研究で判明したとする。

天敵+孤独+記憶+言語という環境変化がウツ病を発現させる構造だという。その模式的な説明は何となく理解できるようにも思えるが、それだけで説明されると本当かなと思ってしまう。

ウツ状態の魚、チンパンジーと言っていたが、それらの活動不活発の状態が人間の疾病概念であるウツ病と同じものと決めてもいいのかと思う。それも外敵から身を守ることや孤独が原因だとすることも、それだけだろうかと思う。

この番組だが、俳優を司会進行役として用いながら豊富なCG映像を多用した、かなり費用がかかっている番組だと思うが、こうした演出は必要なのだろうかということを感じる。

NHKは海外取材など豊富な資料を用いているが放送に使うのは僅かであり、それを出版化することが多い。CG映像などで時間を割くならば、もっと多くの資料紹介をすべきではないかと思う。

NHKは視聴者に分かりやすい説明をしようという姿勢は分かるのだが単純化する余りに間違った印象を与えてしまう可能性がある。

ずっとNHKスペシャルのウツ病治療番組を見てきたが、的外れな報道を繰り返した。特に新薬で大幅に治療が改善するということで、現在では疑問視され薬漬けとなっている精神医療を推し進めた功罪がある。

今回もドイツの事例として、脳内に外科手術で電極を埋め込んでホルモンバランスを改善するという様子を映したが、これを見た視聴者には外科手術で治るという印象を与えてしまう可能性がある。

別に米国で行われている生活改善法だが、その治療を受けた7割が改善したと報道した。この改善したという曖昧な言い方が精神医療では問題とされてもいい。なぜなら、ある治療法の評判を聞いてこれを受けたいという思いで受診した人にとって、それが本当に効果があったかという主観に対しては改善したという言い方に疑問がある。外科手術で患部が消え去ったというようなハッキリしたものはないのだ。多くが改善した・・・というような主観の集計だが、知らない人にとっては治るという印象が残ってしまう危険性がある。

この番組を見た視聴者が持つ印象は、ウツ病は脳の病気であり、多くが解明されつつあり治療法も進んでいるという印象を受ける。ただ現実は、精神疾患の原因はほとんど分かっていないというのが専門家の見方なのだ。

NHKが強く推しているのは、過去には新薬であり、その次は心理療法(認知行動療法)、そして光トポグラフィー(NIRS)検査や経頭蓋磁気刺激(TMS)であった。

冷静に見てみると、新薬の効果は疑問視され、認知行動療法は思った効果はない、そして検査法は補助検査の試行段階に過ぎない。つまり有効な対処法は未だ道半ばなのだ。

ウツ病は極めて現代的な病であり、恐らくは脳の過度の疲労蓄積が起こす身体の反応であろうと思う。だから疲労の原因となる現代生活を見直すこと、つまりライフスタイル全体の見直しが必要であり、薬や検査法、心理療法や外科治療で治るという見方は大きな誤りを含んでいくだろう。

番組では、現代の狩猟生活をする人たちを紹介し彼らには平等感を持っていて結果としてウツ病はないと断言していた。これも間違いだと直感する。

複雑になった現代生活の中で失ってしまったものを回復するあらゆることが、ウツ病のような過度のストレスから人間本来のあり方に戻ろうとすることが大事なのは当たり前のことだ。

脳が全て解析されても精神作用とは何かは永久に分かることはできないと思う。それほど人間は複雑でありナイーブな存在なのだ。簡単に分かり得るとするよりも、不思議な機構を備えた人体の仕組みを示し続けることが大事なのではないだろうか。

ウツ病を克服できるという言葉には多くの視聴者が戸惑いを受けるだろう。病は克服すべきものなのか、それとも学ぶものなのかにより病気に対する見方と対処法が異なってくることは間違いないだろう。


20131022


参考

「新型うつ」はアメリカの陰謀だったのか
2013年10月21日 エキサイトレビュー

アメリカの製薬会社がどうやって、新たな日本のうつ病観を作り上げたか。新しい「うつ」を、どうやって「病気」にしたてあげ、ブームを作り、一大マーケットを形成したか。それを描いているのが『クレイジー・ライク・アメリカ』という本の第四章「メガマーケット化する日本のうつ病」だ。

いきなり京都での豪勢な接待場面からはじまる。接待されているのは精神科医であり研究家のカーマイヤー。接待しているのは製薬会社だ。だが、「我々の薬を使ってください」という接待ではない。“文化がどのように病気の体験を作り上げていくのか”を調査するためだ。

それまで、日本の「うつ」は、“慢性的で破壊的な、仕事を続けたり、上辺だけでも普通の生活を送ったりすることが困難になるような精神疾患”だった。重く、珍しいものだった。だが、それでは市場規模が小さすぎる。製薬会社としては、日本人に、悲しみや抑うつに対する考え方を変えてもらう必要があったのだ。

1902年の日本。
“診察を求めて病院を訪れる患者全体の実に三分の一がこの新しい病気にかかっている”と記事に書かれた「病気」がある。何か?神経衰弱である。大ブームだったのだ。神経衰弱の自己診断法やチェックリストがメディアで喧伝される。

不眠や耳鳴り、集中力の低下、目の疲れや、頭に鍋をかぶっているような感じといった症状が挙げられ、エリートがかかりやすいと言われ、自分は神経衰弱ではないかと心配になり、薬市場が活況を呈す。こういった状況と今のうつ病の状況が似ている、と著者は指摘する。

著者はイーサン・ウォッターズ。アメリカのジャーナリスト。
接待の現場や、被験者募集に見せかけて新聞に何度も全面広告を出したことや、研究論文の多くが製薬会社の雇ったゴーストライターの手によるものだと発覚したことや、うつ患者擁護団体風なサイトだが製薬会社が資金援助していることとや、捏造や、捏造が生まれる仕組みや、「心の風邪」という表現で深刻な疾病でないことを印象づけようとした過程などが、ルポルタージュスタイルで書いてあって、読みやすい。

特に、あああーと思ったのは、「中立な立場での研究がいかに難しいか」というその仕組だ。抗うつ剤に関しての臨床試験研究を調べた結果、74本のうち、肯定的な結果が得られた試験(38本中37本)は専門誌に載ったが、否定的な結果が出た36本のうち公になったのはたった3本だというのだ。しかも、残り33本のうちいくつかは、“実際とは異なる肯定的な結果が出たとする形で報告”されていたのだ。

これ、研究者の立場になると、肯定的な結果が出る方向でしか研究したくなくなっちゃうだろう。
そうしないと、出世どころか、発表もままならないのだから。

イーサン・ウォッターズは、こう書く。
“他国の文化に及ぼしている厄介な影響の象徴はマクドナルドではなく、人の心に対する見方を均質化させようとする潮流であるということだ。我々アメリカ人は、世界における人間の心についての理解の仕方をアメリカ流にしようという壮大な陰謀に加担しているのだ”

 ***

マイル・ミルズ監督も、アメリカ人でありながら、同じような不安から作品をつくったひとりだ。
“ハッピーじゃないとダメだ、という考え方を輸出することで、私たちアメリカ人はビジネスをするわけです。だから、このプロジェクトをはじめるにあたって、グローバリゼーションというものが、まず頭の中にありました”(マイク・ミルズ監督インタビュー)

マイク・ミルズ監督は、ネットを使って以下の条件に合う人を募集した。
・抗うつ剤を飲んでいること
・日常生活をありのままに撮らせてくれること
・東京都内在住者

こうして集まった人の中から、ドキュメンタリー作品『マイク・ミルズのうつの話』に登場するのは5人。
ミカ:酢を呑むことを日課にする20代、実家暮らし。
タケトシ:うつ歴15年。仕事なし、両親と同居。
ケン:ハイヒールとホットパンツで外出。縄師のもとに通って、縛ってもらうのが趣味。
カヨコ:自殺願望あり。犬と暮らしている。
ダイスケ:毎日4種類の抗うつ剤を服用しつつ、飲酒、喫煙。

映画は、彼/彼女たちの生活を、静かに映し出す。専門家が登場して「うつ」や「抗うつ剤」について語るシーンはない。膨大な統計データを差し込んだりすることもなく、ナレーションで解説することもない。
「うつ」になっている本人と暮らしが、展開していく。自分の息子について、ほとんど何も語ることができない父親。ケンが通っている縄師の先生が語る、縛ってもらうお客さんのなかには何故かうつの人が多いという言葉。集会で描いているたくさんの絵をカメラに見せるタケトシの表情。「うつとではなく、抗うつ剤と戦ってる」というミカの声。犬がいなかったら自分はもう死んでいただろうと語るカヨコ。
どこにでもある、でも、それぞれの人がそれぞれに生きている様子。

いろいろな暮らしがあって、その人らしく楽に生きていけるといいと思う。
ハッピーでありたいと思う。
でも、それを疑ってもいい。

ぼくたちは「ハッピーであれ」という単純な呪文で生きていくには繊細すぎるのかもしれない。
(米光一成)


『クレイジー・ライク・アメリカ』
 (イーサン ウォッターズ著/阿部宏美訳/紀伊國屋書店)
副題は「心の病はいかに輸出されたか」。第一章:香港で大流行する拒食症/第二章:スリランカを襲った津波とPTSD/第三章:変わりゆくザンジバルの統合失調症/第四章:メガマーケティング化する日本のうつ病
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『マイク・ミルズのうつの話』
 (マイク・ミルズ監督/84分)
2013年10月19日、渋谷アップリンク/ブリリアショートショートシアター公開中。2013年冬、大阪シネマート心斎橋公開。


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