ラジオ深夜便 「出会いと愛」田中優子(江戸文化研究者)

出会いと愛(3)法政大学教授 田中優子
20113年5月8日深夜 NHKラジオ深夜便〔ミッドナイトトーク〕後半

アンカー:宮川泰夫



江戸時代には恋愛という概念がない。ヨーロッパから入ってきた概念でLove=大切と翻訳していた。

恋という概念はあった。それは性的なつながりというのが必ずある。それが大事とされていたのは江戸時代には肯定感があった。非常に健康的だと見られていた。生命力の表れとみていた。

恋というのは性のみでなく文化の一端である。好色のイメージがプラスのイメージである。小説・洒落本・浮世絵・文学・音楽・和歌を作るという教養があるということ。互いに教養がなければ成り立たないものである。

ところが恋愛結婚というものはない。

世界中でも、ヨーロッパでもない新しい概念。結婚とは家と家の結びつき。何かを継続していくことに相応しい人どおしが結びついていく。真面目な結婚と浮気な結婚があったという。継いでゆく、継続していくことが大事。その点で江戸時代は婿や養子をもらって家を継続させるという考え方。例えば家業を継ぐ場合でも子どもの出来が悪ければ養子をもらって継がせて家の存続を優先していた。

恋と結婚は別物。恋は結婚と結びついていないから自由な世界。恋愛をしたからといっても結婚をする必要もないし勝手に恋をすればいい。

江戸時代の遊郭は恋の世界を演出で作り上げている世界。吉原では年中行事を行い別の世界を演出する芝居の世界。今の売春とは割り切れない感覚がある。文化の遊びという側面がある。近松の浄瑠璃などを見ていると女性が積極的という印象がある。

最近気に入っている言葉は愛は連鎖するということ。渡辺京二『逝きし世の面影』の本からも、江戸時代には幸福の連鎖があったのではないだろうか。人とのつながりがとても大切になっていた時代ではないか。

現代の若者は恋愛についても自由になれず、彼がいるいないという強迫観念下にあるのではないか。江戸時代にはストーカーはなかったのかもしれない。人間関係が密であり事情をよく分かった隣人たちに囲まれていた。家の中に勝手に入ってくる長屋生活なども玄関のところまでの立ち話で、それ以上は干渉しないという距離感を保つという「世間」という感覚を享受していた。だから何か問題があっても話を聞いてくれる環境で解決していく。それにくらべ現代では自分の世界に容易に閉じこもりやすい。

今でいう「不倫」が大げさな言葉だと感じる。人間の持つおおらかさ、人間関係がどこかに開かれている世界が必要なのではないか。江戸時代にはプライバシーという意識がない。それがなくて不自由なのかというとそうでもないのではないか。

私の恋愛観としては、オープンに恋愛があってもなくても密な人間関係を築けたらよいと思う。

「三省」 (論語学而第一より)
曽子曰く、吾(われ)吾が身を三省(さんせい)す。
人の為に謀(はか)りて忠(ちゅう)ならざるか、 朋友(ほうゆう)と交わりて信(しん)ならざるか、習わざるを伝うるか。

これは全て愛であると思う。

以上、番組後半部の私的要約

インタビュー前半部分では、江戸学に入るきっかけとなった法政大学での恩師との出会いを語り、加えて和服着用が多い理由と効果を語った。

この部分を抜き出した理由は、実は恋愛について語っているからだ。愛、恋、恋愛、結婚・・・こうした言葉の違いを考えていくと分からなくなることがある。

別項で取り上げているジョーゼフ・キャンベル教授の著作では、愛の成立について特にヨーロッパの吟遊詩人が発端であったとし、それが人類にもたらした大きな変化について詳述している。

その考え方と同じくして、江戸時代でも家を継続させることが結婚の大きな意味であり、恋は別項であったとするのもヨーロッパの歴史として同じものであり、特に日本の性文化の豊かさは世界一の様相を呈し独自の豊かな文化を育んでいたことを想起させる内容であった。

今では恋愛結婚は当たり前であり、個人と個人が好きになり一緒に家庭を築くことが当然だと思っているだろうが、実はそれは歴史の中では僅かなのだ。

家と家どおしの結婚が不毛であるとは言えないことは分かるだろう。夫婦になることは新しい関係を得ることで好き嫌いといった感情を超えた共同生活、子育てをしつつ互いに深い結びつきも可能であったからだ。

簡単に結婚し離婚できる時代になり忍耐することができない時代になった。江戸時代に戻ることができるわけではないが、江戸が自給自足の100%循環型エコ都市であったことや芳醇な文化を享受していたことからも学ぶことが多い時代であることは間違いないと思う。


田中優子 法政大学教授サイト ゆう魚斎雑録
 http://lian.webup08.jp/yuu/
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