「ヤマナカ」世界が注目 各国メディアから取材殺到 宗教専門紙も

「ヤマナカ」世界が注目 各国メディアから取材殺到 宗教専門紙も
2012年10月10日 産経ニュース

 ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった京都大教授の山中伸弥さん(50)に、海外メディアの取材申し込みが殺到している。国内では、老舗の宗教専門紙が異分野に“参戦”し、生命倫理の面から山中さんに迫ろうとしている。受賞を機に「世界のヤマナカ」に対する注目度は増すばかりだ。

 京都大やiPS細胞研究所の広報担当者によると、受賞決定後、スウェーデンをはじめ英国、米国、イタリア、ブラジル、南アフリカなど世界各国のメディアから個別取材の依頼が寄せられている。

 山中さんらが対応を順次検討している状況といい、担当者は「良きライバルである海外から注目されるのはうれしいが、さばききれていない」と悲鳴を上げる。

 受賞発表のあった8日、山中さんがすべての取材を終えたのは、日付が変わった9日の午前1時過ぎだった。日本の新聞、テレビ各社の個別取材に加え、米紙のニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルなど、海外有力紙の取材も相次いだからだ。

 さらに、山中さん自身が「研究者生活やiPS細胞研究の基礎を築いた」と表現する留学先で、現在も京大と並んで籍を置く米グラッドストーン研究所主催の“中継会見”が時差をぬって行われ、多くの海外メディアが出席したという。

 どんな取材にも誠実に対応する山中さんだが、「みなさんに受賞の喜びやお礼をきちんとお話ししたい。でも、僕の本職は研究者なので、来週からは本職に戻りたい」とも。

 一方、国内メディアでは週3回、京都を拠点に老舗の宗教専門紙を発行する中外日報社(京都市南区)が、9日午前の山中さんの記者会見に記者を派遣した。

 ヒトのiPS細胞から精子と卵子ができる可能性について質問。山中さんから「受精させていいのか、受精卵ができても本当に安全な胎児が生まれ、天寿を全うすることができるのか。一般の方、生命倫理の方々とともに議論を深める必要がある」という見解を引き出した。

 北村敏泰(としひろ)編集局長(61)は「小児脳死移植や尊厳死の問題など、これまでも宗教が密接にかかわる問題を紙面で取り上げてきた」と説明。

 その上で「山中さん自身が、過去にiPS細胞をめぐる自身の研究を『神の領域に入ることになる』と表現している。宗教者にも、この研究をめぐる生命倫理の問題に目を向け、見解を発信してもらいたい」と、狙いを明かした。



・山中教授の研究で、現代医療と生命倫理の問題が格段にクローズアップされた。

過去にも現代医療の進展につれて、神の手を逸脱するのではないかとして宗教界は反対の姿勢を続けている。それは宗教経典が編まれた時代には、こうした問題はなかったからだと言える。

人類の長い時間は、医学は呪いやシャーマンの手によるものであり、その後も根拠の薄い治療哲学によって細々と流れてきた。現代医学の恩恵に預かったのは僅か100年程度のことに過ぎないだろう。

医学者の願いは、山中教授の研究動機である難病治療など、日の目の当たらない疾病に対する有効な治療法の研究を進展さえたいという強い願いからだ。従来は実験動物により治験を経て人間に応用されることになってきたが、ips細胞により病変部を持った細胞を作り出すことで、薬の研究のみならず細胞そのものに対して有効な治療法を研究できる可能性が大きく拡がってゆく。

この受賞直前に、慶応大学の研究チームがヒトに対してさらに踏み込んだ実験に成功している。

記事では、倫理的な面を山中教授に問うているのだろうが、これは人類全体の問題であり研究者の知的な暴走をどう抑制し社会全体の共有価値として定着させていくのか、答えはない大きな問題を突き付けられた格好となった。


中外日報社  http://www.chugainippoh.co.jp/


〈iPS細胞の最新研究〉

人のiPSで生殖細胞の元 慶応大、国内初か
2012.10.5 産経ニュース

 人間の皮膚の細胞から作った人工多能性幹細胞(iPS細胞)を培養し、精子や卵子の元になる「始原生殖細胞」に成長させることに慶応大の岡野栄之教授らが成功したことが5日、分かった。

 始原生殖細胞に特徴的に現れる遺伝子が確認できた。海外では既に作製例が報告されているが、国内では初とみられる。

 この細胞から精子や卵子を作るのが目標。生物の発生や、生殖細胞に原因がある病気の仕組み解明などの研究に貢献が期待される。

 文部科学省の指針で、人間では、こうした生殖細胞を受精させることは個体づくりにつながる恐れがあるため禁止されている。

 始原生殖細胞は、精原細胞、卵原細胞へ成熟した後、減数分裂など多くの段階を経て精子、卵子になる。



iPS細胞から卵子 世界初、マウス誕生 京大院グループ成功
2012.10.5 産経ニュース

 さまざまな組織や細胞の元になる能力がある人工多能性幹細胞(iPS細胞)から卵子を作り出し、マウスを誕生させることに、京都大大学院医学研究科の斎藤通紀(みちのり)教授(発生生物学)らのグループが世界で初めて成功した。5日付の米科学誌サイエンス電子版に掲載された。グループは昨年8月にマウスのiPS細胞から精子を作製しており、理論的には、iPS細胞から作製した卵子と精子を受精させ、新たな生命を生み出すことが可能になった。

 グループは、マウスの雌の胎児の細胞からiPS細胞を作製。特定のタンパク質を加えて分化を促し、精子や卵子の元になる「始原生殖細胞」を試験管内で作った。これを、別の雌の胎児から取り出した体細胞と混合させて培養。卵巣に似た組織を体外で作った上で、雌マウスの卵巣に移植し、卵子を育てた。

 約4週間後、移植先から卵子を取り出して体外受精させたところ、健常なマウスが誕生。このマウスが親となり、孫にあたる子供を産めることも確認した。胚性幹(ES)細胞でも同様の結果が得られたという。

 ただ、受精卵から子供が誕生する確率は、ES細胞から作ると通常の約4分の1、iPS細胞ではさらにその半分程度にまで下がった。細胞分裂の過程で何らかの問題が発生している可能性が高いという。斎藤教授は「ヒトへの応用にはかなりの研究が必要。倫理的な問題や安全性の課題をクリアできるか、多方面から検討していきたい」と話している。

【用語解説】人工多能性幹細胞(iPS細胞)

 筋肉や血液、神経など、さまざまな組織や臓器になる能力を持つ新型万能細胞。通常は皮膚などの体細胞に遺伝子を導入して作る。京都大の山中伸弥教授が平成18年にマウスで、19年にヒトでの作製に成功したと発表した。



iPS細胞から卵子 生命の作製、倫理に課題 不妊治療には期待
2012.10.5 毎日新聞

 京都大大学院の斎藤通紀(みちのり)教授らの研究グループが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から精子に続いて卵子を作製し、子供を誕生させることに成功した。今後、生殖細胞(精子と卵子)の発生メカニズムや不妊治療の研究などへの応用が期待される半面、人工的に作ったヒトの精子や卵子で受精卵が作れるようになる可能性も芽生え、倫理面で新たな議論も巻き起こりそうだ。

 「不妊に悩む女性の6~7%は卵子を作れず、現在の医療では別の女性から卵子の提供を受けない限り、妊娠は不可能だ。今回の研究は、そうした患者にとって光となり得る」。今回の研究成果について、森崇英(たかひで)京都大名誉教授(生殖医学)が評価した。

 iPS細胞は、皮膚からでも作製できるのが特徴。成果をヒトに応用できれば、さまざまな細胞から卵子を作る道が開ける。さらに、卵子ができるメカニズムの解明につながれば、先天性疾患の原因究明にも可能性が広がる。

 ただ、実現にはまず技術的なハードルがある。実験動物としてさまざまな個体を人工的に作れるマウスほど、ヒトの細胞を扱う技術は進歩していないからだ。

 今回、研究グループは、iPS細胞から作った始原生殖細胞を、胎児の体細胞と混合させ、培養した後でいったんマウスの体に戻し、卵子を作ってから再び取り出す手法をとった。

 野瀬俊明・慶応大特任教授(生殖発生学)は「生体の力を借りた部分をどう体外で再現するかが、次のステップになる」と指摘する。

 iPS細胞はがん化のリスクが伴うため、世代を超えた安全性の検証も必要だ。国立成育医療研究センターの阿久津英憲(ひでのり)幹細胞・生殖学研究室長は「成長した個体とその子供で安全性の確認が重要だ」と話す。

 倫理面での検討も欠かせない。国は平成22年5月、マウスなどによる研究の進展を踏まえて、ヒトのiPS細胞を使った精子や卵子の研究に関する指針を改定。作製することは認めたが、受精は「時期尚早」として、解禁を見送った。

 一方で、精子や卵子が実際に機能するかどうかを確かめるには、受精させるのが最も確実な方法だという意見は、研究者の間で根強いとされる。

 大阪大大学院の加藤和人教授(医学倫理)は「ヒトでの基礎研究と応用の2段階で、どこまで研究を進める必要があるか検討する必要が生じている。まず何を議論すべきかを議論するところから始めなければならない」と指摘。東京大医科学研究所の武藤香織准教授(医療社会学)は「実験に用いる受精卵が不妊治療に使われる、個体が誕生する、などのあらゆる可能性を想定することが必要だ」と話している。

 iPS細胞を作製した山中伸弥・京都大教授の話
 「昨年の精子からわずか1年で卵子の作製に成功したことは、不妊症の原因解明や創薬につながる大きな一歩だ。一方で、理論的には、ヒトiPS細胞から新たな生命を誕生させることが可能になるという倫理的な問題も生まれた。今後は研究が独り歩きすることのないよう、積極的に情報発信し、一般の方々の理解を得ながら慎重に進める必要がある」




講演録

山中京大教授の講演 中日懇話会(2008年7月9日中日新聞朝刊掲載) 
2012/10/9

 第400回中日懇話会(中日新聞社主宰)で8日、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の特長と課題について語った山中伸弥京都大教授。世界に衝撃を与えたiPS細胞の開発の経緯を振り返りながら「最終的には、患者の治療につなげていきたい」と、いつも患者を念頭に置いている研究姿勢を示した。

◆未来開くiPS細胞
    ◇
■期待 難病治療への有効打
 私はもともと臨床医。約二十年前までは整形外科医を志していたが、基礎医学の方が向いていると思い、その研究を続けている。医者なので最終的には患者さんの治療につながる研究をしたいと考えている。
 若年型糖尿病や脊髄(せきずい)損傷、白血病などの病気は治療が非常に難しい。何とかして有効な治療法を作りたいとの思いがある。
 糖尿病はインスリンの不足から起き、血液中の糖が増え、血管障害や神経障害、代謝障害を引き起こす。糖尿病は二種類あり、若年型は子どもに多く、国内では数十万人ほどの患者がいる。免疫の異常が原因と考えられ、インスリンがまったく分泌されない。
 このため患者は一日四回、自分でインスリン注射をしなければならない。しかし、インスリンが効き過ぎると、患者を苦しめる低血糖になる。
 一九九〇年代は臓器移植が非常に発達した。若年型糖尿病には、すい臓を移植する「すい移植」や、インスリンを作る「すい島」という部位を移植する「すい島移植」という治療法がある。
 すい移植は、脳死移植が必要で、大手術になり、危険もある。すい島移植も、脳死者や家族から提供されなければならない。家族からの移植は、親子であっても拒絶反応が出ることがある。ドナー(臓器提供者)が不足している現実もある。移植したくてもできない状況だ。
 これに対し、私たちが目指す再生医学は、臓器や細胞を人間の手で作り出し、もしくは増やして患者に移植するというものだ。
 再生医学の切り札の一つがES細胞(胚(はい)性幹細胞)。神経や筋肉などすべての細胞へ分化できる「多能性」と、ほぼ無限に増殖できるという特性がある。このため神経や心筋など各種細胞を必要なだけ作製できる。
 たとえば、糖尿病ではES細胞を増やし、それをすい島の細胞に分化させ、患者に注射して治療できる。同様に脊髄損傷や白血病、パーキンソン病、筋ジストロフィーなどさまざまな病気やけがへの治療が期待されている。
 ヒトのES細胞は十年前に作られたが、ES細胞を使った実際の治療は一例も実現していない。
 課題の一つは、別のヒトの受精卵から作るため、移植すると拒絶反応が起きる可能性がある。しかし、この拒絶反応も患者自身の体細胞の核と、ES細胞の技術を組み合わせることで克服できると言われている。ただ、マウスを使った実験は成功したが、サルやヒトの受精卵は非常に弱いこともあり、実現していない。
 もう一つの課題は、たとえ治療のためであってもヒトになる可能性を秘めた受精卵を使っていいのかということだ。倫理的な問題だ。世界的に見ると、反対する人が多く、米国のブッシュ大統領は「越えてはいけない一線を越えている」と強く反対している。

■開発 鍵となる遺伝子特定
 私たちは、ES細胞のいい点だけを生かして問題を回避できないかと考え、研究を始めた。受精卵からではなく、皮膚など患者自身の体細胞から直接ES細胞に類似したものを作れないかと。
 皮膚細胞とES細胞は、まったく違うが、私たちは可能と考えた。細胞の設計図はどれも一緒だからだ。設計図は核の中にある遺伝子で、約二万個ある。そのうち、どれが働くかで、できる細胞が違ってくる。
 最初にやったのは、ES細胞で活躍する遺伝子を片っ端から探すことだった。二十四個に絞り、一つ一つマウスの皮膚細胞に入れたが、成果は出ない。半ばやけくそで、一気に全部入れた。すると、ES細胞としか思えない細胞ができた。
 では、二十四個のどの組み合わせがそうさせたのか。二十四個から一個ずつ取り除き、細胞に入れる実験をした。本当に大切な遺伝子が欠けると、細胞は変化しない。これで最終的に四つ、中でも三つの遺伝子が大事だと分かった。
 これらをマウスの皮膚細胞に同時に入れるとES細胞そっくりの細胞ができ、iPS細胞と名付け、二〇〇六年に報告した。マウスだけで満足するわけにいかなかった。昔、私が医者になり、亡父はとても喜んでいた。だが、臨床から離れ後ろめたい思いがあった。
 世界の研究は、マウスのES細胞の作製からヒトでの成功まで十七年かかったが、iPS細胞は一年でできた。ヒトでもマウスと同じ四遺伝子を導入すればいいことが分かった。ヒトES細胞の研究成果がずいぶん蓄積されていたおかげだった。
 iPS細胞の能力はES細胞に匹敵する。最初の皮膚細胞は三十六歳の白人女性のほおから取った。そういう細胞からドッキドッキと拍動する心臓や神経、それに脂肪なんかの細胞もできる。

■展望 特許蓄積が実用への道
 今、いろいろな病気の患者の皮膚細胞からiPS細胞を作る研究を進めている。iPS細胞をどんどん増やした後、神経、すい島細胞などを作る。そういう細胞は、病気の原因解明や、薬の開発・副作用の検証に非常に役立つ。
 たとえば、高い確率で致死性の不整脈が起きるQT延長症候群。遺伝的に起こる人もいるし、抗生物質や風邪薬などの薬で誘発されることもある。今までは、患者の心電図を取りながら実際に薬を使ってみる検査しかなかったが、非常に危険だ。iPS細胞から収縮する心臓の細胞を作れば、調べたい薬を投与して検証できる。
 もう一つは細胞移植。慶応大との共同研究では、まだマウス実験の段階だが、神経細胞の基になる神経幹細胞が作れることが分かった。脊髄損傷のマウスにiPS細胞から作った神経幹細胞を移植すると、運動能力が完全ではないが回復した。
 脊髄損傷したマウスの場合、けがをして九日目に移植しなければ治療効果はがくんと下がる。おそらく人間でも十日目前後に移植しなければだめではないか。一方、iPS細胞を作るのに一カ月かかり、そこから神経幹細胞を作るのにもう一カ月かかる。あらかじめ多くのボランティアからiPS細胞を作り、細胞に分化させておくのが現実的だ。
 血液バンクと同じようなものをつくり、そこから取り寄せればいい。拒絶反応をどう避けるかだが、移植用細胞にも四種類の血液型と同じような型があり、ある研究によると、日本人なら五十種類も作ればカバーできる。
 iPS細胞は、海外でも研究が進んでいる。実用化には一つの特許ではどうにもならず、数十、数百と組み合わせなければならない。米国も毎週のように論文を出しており、おそらく多くの特許申請をしている。iPS細胞はわが国発の技術。私たちも、こつこつ知的財産を積み重ねることが日本での治療応用には大事だ。


<iPS細胞とは> ヒト皮膚細胞から作製成功/多様な細胞に成長
 皮膚などの体細胞に数種類の遺伝子を導入することで、多様な細胞に成長できる能力を持たせた細胞。従来の万能性がある胚性幹細胞(ES細胞)と異なり、育てば赤ちゃんになる受精卵(胚)を材料にしない点で倫理問題を回避できるのが最大の利点。山中伸弥京都大教授らが2006年、マウスの皮膚細胞から作製、07年11月、ヒトの皮膚細胞からの作製にも成功した。
 患者自身の細胞からつくったiPS細胞は患者と同じ遺伝情報を持つため、再生医療に使った場合、拒絶反応がない。病気の仕組み解明や薬の開発、副作用試験の応用も期待される。

 山中教授は、万能細胞として開発されていたES細胞の中で活発に働く因子(タンパク質)をつくる4個の遺伝子を特定し、その4個の遺伝子を「レトロウイルスベクター」と呼ばれる遺伝子の運び屋に入れて、皮膚の細胞に送り込むことでES細胞と同じ能力を持つiPS細胞を作製した。現在、3個の遺伝子でも作製に成功している。レトロウイルスベクターは、細胞のDNAに割り込ませるため、もともとあった細胞の重要な遺伝子が失われ、細胞ががん化する恐れもある。現在、レトロウイルスベクターを使わないiPS細胞の作製法が研究されている。



山中夫妻会見 一問一答 
2012/10/9 中日新聞

 山中伸弥さん(50)・知佳さん(50)夫妻の記者会見の一問一答は次の通り。

 -今の気持ちを。

 山中さん 感謝と責任の二つ。取材が終わったのは午前二時ごろだったが、学生が研究所で喜ばせよう、気持ちを和ませようと待ってくれていた。こういう学生や仲間に恵まれたのが、今回の受賞につながったとあらためて感じた。

 奈良先端大で初めて研究室を持ち、そのメンバーがiPS細胞を作ってくれ、今も主要メンバー。昨夜は米国の研究仲間とネット画面を通して話し、お祝いの言葉をもらった。米国の多くの仲間にも支えられている。

 今週は日本の皆さんに私たちの今の研究について、多くの人に現状を話して正しく理解していただくことを一生懸命したい。来週からは科学者としての仕事もたくさんあり、今回かじ取り役に任命されたとも思っているので、気持ちを切り替えて、研究開発の現場に戻りたい。

 野球だと三割で大打者だが、研究は一割打者なら大成功。一回成功するためには九回失敗しないと成功がこない。実際は何十回トライしても失敗も起こる。やめたくなる二十数年だった。そこで家族の存在、家に帰ったら笑顔で迎えてくれる。英語も分からないのに、米国にも家内は自分の仕事を中断して一緒にきてくれた。家族がなければ研究を続けてこられなかった。これからも家族や友人に支えられ、ノーベル賞にふさわしい仕事だったと思ってもらえるように頑張っていきたい。

 知佳さん たくさんの方に支えられ、このような日を迎えて、心から深く深くお礼申し上げます。たくさんの方に喜んでいただけることがうれしいです。ありがとうございました。

 受賞の一報をいただいたとき、主人は洗濯機の修理をしていて、私は冬用の布団にカバーをかけていて、娘はソファでうとうと。主人が電話で英語で話し、「サンキュー」「サンキュー」と言っていたので、大変なことになったのではないかと娘と顔見合わせ、言葉も出ませんでした。しばらくたってから「良かったね」と言葉を掛けた。

 -家族が支えになったエピソードを。

 山中さん 研究の一番基礎になっているのは米国留学の三年余り。当時の研究がiPS細胞につながったし、研究の本場で基礎や厳しさも学んだ。日本では研究もし、夜の診察や土日は当直もあり、家に帰れなかったが、留学中は研究しているか家にいてるか。研究以外の時間ができて、子どもの成長をすぐ横で見て、子育てに携われた。研究でいろいろあっても、家に帰って子どもの笑顔を見ることがずっと私の支えだった。

 -山中さんの普段の様子は。

 知佳さん ごく普通の父親、主人です。普段はとっても忙しいが、休日は家族のために進んで手伝ってくれています。どうしても研究の競争があり、声を掛けるのもはばかられるほど集中している時があった。どうサポートしていいか分からないこともあったが、たくさんの方に支えてもらった。

 -山中さんは愚痴を言うか?

 知佳さん 愚痴は言いません。ただただ走りにいって体動かしてリフレッシュしている。

 -山中さんに注文は。

 知佳さん 疲れているのに、あえて走ろうとするところ。街で走るのを見かけたら、ほどほどにするように言ってください。

 -山中さんにとってマラソンとは。

 山中さん 中学の時から体動かすのが大好き。器用じゃないので、球技をやっても活躍できないもどかしさがあった。柔道はそれなりに頑張ったが、その中でマラソンを走るのは速いと気付き、向いてるのではないかと。奈良先端大時代では毎朝、田んぼの中を走っていた。京都に来るとすぐ横に鴨川があるので昼休みに抜けて走るようになった。

 マラソンしてるときはできるだけ頭の中を真っ白にして、鳥の声とか音楽を聴いて、精神のリフレッシュのつもりで走ってる。マラソンはペース配分は大切。研究も速く走りすぎて途中で失敗することのないように、何十年という長い道のりなので走っていきたい。今回の受賞でさらに頑張らないとダメという期待をいただいて、責任を強く感じているが、実力以上にペースあげると必ずばてるので、よく考えたい。

 -受賞する予感はあったか。山中さんが重圧を感じている様子を具体的に。

 知佳さん たくさんの人から期待してもらう声は聞いていたが、二十年、三十年先なら良いなと思っていた。今回は予想していなくて、和やかな秋の中でただびっくりした。外国とのやりとりは時差がありリラックスする時間が限られている。家にいても電話していることが多く、もう少ししっかり休んでほしい。

 -受賞を機に力を入れたいことは。

 山中さん 四つの目標に向かってきた。技術を確立し、iPS細胞のストックを作る。臨床研究を今後、八年以内にスタートさせ、難病の方々のために薬をつくること。この四つを粛々と進めていきたい。多くの種類の病気があり世界の難病患者にメード・イン・ジャパンの薬を提供することを目標に、今後も研究を続けたい。

 -三年間、米国に行く決意をした理由は。ノーベル賞受賞で、山中さんは変わったか。

 知佳さん 米国生活が始まった時、私も楽しみにしていた。受賞で何か変わったかどうかは、ちょっと寝不足かなというくらいしか分からない。

 -生命倫理上の課題や宗教観への期待は。

 山中さん マウスではiPS細胞で作った精子と卵子から新しい生命を誕生させる状況になった。人間のiPS細胞から作った精子、卵子を受精させてどこまで経過をみるのか。子どもとして誕生する可能性まで認めるのか。受精卵ができても、正常な胎児、赤ちゃんになり八十歳まで生きられるのか、確証を得ることは非常に難しい。研究者と一般の方々が、いつ完成するかもしれない、あり得ない技術について、先延ばしにせずしっかり議論すべきだ。

 -開発から六年余りで選ばれた理由は。

 山中さん ジョン・ガードン先生は核の初期化という、細胞が分化した後も情報をすべて保持していることを明らかにした。私たちは簡単な方法でその情報を引き出すことに成功したが、そこで終わりとは思っていない。今後の技術を使って、ノーベル医学賞としてもふさわしかったと何十年後に思ってもらえるよう、これからが勝負。早く研究の場に戻りたい。



山中教授の記念講演要旨
2012/12/8 中日新聞

 山中伸弥京都大教授のノーベル賞受賞記念講演の要旨は次の通り。

 【はじめに】

 50年前、私の生まれた年に細胞核の初期化の分野を開拓したジョン・ガードン氏とノーベル医学生理学賞を受賞できることを光栄に思います。

 【研究者への道を歩み出した頃】

 整形外科医から基礎医学に転向した私は「予期せぬ結果」と「素晴らしい師」と出会えた2点でとても幸運でした。

 大阪市立大では、大学院生として三浦克之先生の指導のもと、三浦先生の仮説を確かめる実験をしました。血圧を下げないだろうと予想される物質を犬に投与したところ、予想に反して血圧が下がりました。驚いて三浦先生に報告したところ、自分の仮説が外れていたにもかかわらず一緒に喜び、研究を続けることを励ましてくれました。

 1993年に博士号を取得し、米グラッドストーン研究所のトーマス・イネラリティ博士のもとで研究を始めました。ここでも、イネラリティ博士の仮説を証明すべく、「APOBEC1遺伝子」を過剰に発現させると、コレステロール値が下がることを期待して実験しましたが、予想が外れ、この遺伝子が肝細胞がんに関わることが分かりました。しかしイネラリティ博士はその結果に興奮し、研究を続けることができました。

 私には2タイプの師がいます。一つ目は三浦先生やイネラリティ博士のような研究者としての師です。彼らのようになりたいけれど、なかなか苦戦しています。二つ目は、自然そのものです。自然は時に予想していなかったことを私に教えてくれ、新たなプロジェクトへとつながりました。

 【iPS細胞に至る研究】

 APOBEC1遺伝子の研究過程で、NAT1という遺伝子が見つかり、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)にとって大切なことが分かりました。ES細胞にはほぼ無限に増殖する能力と、さまざまな細胞に分化する能力がありますが、NAT1は後者の多分化の能力に重要であることが分かりました。

 このころ、米国から日本に帰り「帰国後うつ」という病気にかかりました。マウスのES細胞の研究が患者さんの助けになるのか、研究の方向性について悩んでいましたが、二つの出来事によって回復しました。一つは、米国のジェームス・トムソン博士のヒトES細胞の樹立というニュースです。もう一つは99年、37歳の時に奈良先端科学技術大学院大で研究室を持ったことです。

 私は「受精卵からではなく、患者さん自身の体の細胞からES細胞のような幹細胞を作り出すこと」を研究室の長期目標として掲げることにしました。それまでに明らかにされていた研究の流れから、理論的には可能だと思っていました。

 20年、30年かかるか、あるいはそれ以上か見当もつきませんでしたが、2006年にはマウスで、07年には人でiPS細胞の樹立に成功。四つの因子で細胞核を初期化できることを示すことができました。

 この成功は私だけのものではなく、3人の若い科学者、高橋和利君、徳沢佳美さん、一阪朋子さんの努力なしには成し遂げられませんでした。また、iPS細胞に至る三つの道筋をつくった科学者たちにも感謝したいと思います。

 体細胞の核を卵に移植することによる体細胞の初期化研究の流れ。ガードン氏や多田高京都大准教授らによる成果。

 単一の転写因子によって細胞の運命を変える研究の流れ。

 ES細胞など胚からの未分化細胞による多能性に重要な因子の同定の流れ。

 【iPS細胞の可能性】

 私は京都大iPS細胞研究所の所長であり、グラッドストーン研究所の上席研究者でもあります。iPS細胞の応用には三つの可能性があり、その研究を推し進めています。

 一つ目は、患者さんからiPS細胞を作製し、それを患部の細胞に分化させ、病気を再現することで、病気の解明や薬剤の探索に活用することです。

 例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんに体細胞を提供していただいてiPS細胞を作り、神経に分化させ、病気の状態を探る研究をiPS研究所の井上治久准教授が行っています。

 二つ目は、iPS細胞から分化させた細胞で薬の副作用を調べることです。三つ目は再生医療です。(共同)



iPS実用化、着実に 山中教授に聞く 
2013/10/6 中日新聞

◆ノーベル賞から1年

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を開発した山中伸弥・京都大教授(51)がノーベル医学生理学賞を受けてから一年。本紙の単独インタビューに応じ、iPS細胞を使った臨床研究の開始を「大きな一歩」と評価。再生医療の今後の見通しについて「ゴールは遠いが着実に進んでいる」と語った。

 -ノーベル賞の受賞決定から一年。

 去年は賞の発表日が祝日で、自宅で落ち着いて連絡を受けることができた。授賞式のあったストックホルムに家族のほぼ全員が行けたことも良かった。僕自身は気が動転していて、あまり記憶がない。ストックホルムもゆっくり楽しめず、もう少し食事も味わいたかった。

 -この一年でiPS細胞研究は新たな段階へ。目の疾患「加齢黄斑変性」で世界初の臨床研究が始まった。

 ヒトiPS細胞を発表した二〇〇七年、理化学研究所の高橋政代先生が「五年で(臨床研究を)やる」と言い、その後、着々と進めてきた。僕は「ビジョンとハードワークが大切」とよく言うが、まさにその通りで「チーム高橋」に敬意を表したい。

 人工的につくられた細胞が誕生から六~七年で臨床現場で試される。画期的で大きな一歩。「ゼロ」と「一」の違いは非常に大きい。ただ、これを「百」くらいにしないと。まだまだ長い道のり。今回は五、六人に限定して安全性を検証する臨床研究で、本当に安全かを確認していく。

 -他の疾患については。

 いくつかの疾患で臨床研究の前段階まで進んでいる。京大の研究所だとパーキンソン病の治療、他機関では、心不全に対する心筋の移植や脊髄損傷。網膜の視細胞や角膜の移植も五年以内に臨床研究が始まると期待している。iPS細胞からつくる輸血用の血小板や赤血球の安全性は極めて高く、実用化は早いだろう。

 時間がかかりそうなのは(膵臓(すいぞう)の細胞が壊れてしまう)1型糖尿病。iPS細胞から膵臓の細胞をつくる技術が未完成だ。腎臓も時間がかかるかもしれない。

 -今後の課題は。

 再生医療では安全性や効果の面で中止になることがあるかもしれないが、日本は世界のトップを進んでいる。iPS細胞技術を使った創薬は、より強力に進めたい。何百という病気が創薬対象になる。既に百以上の疾患の研究報告があるが、創薬の過程は長く、まだ一つもできていない。企業や他の研究者への技術の普及や細胞の供給にも取り組みたい。

 -患者や家族にメッセージを。

 加齢黄斑変性以外の病気やけがでは臨床研究も始まっておらず、一般的な治療になるには長い年月が必要。できるだけ早くと思っているが、常に安全性を考慮し、十分に注意して進む必要がある。

 ゴールは遠いが着実に進んでいる。ちゃんとペース配分して走れば到達できる。患者や家族のために最後まで一歩一歩、進みたい。僕自身、この一年で恩師や友人などを亡くし、悲しみに直面した。病気の解明や治療に貢献したい気持ちがより強くなった。

(京都支局・芦原千晶)

 <iPS細胞> 神経や筋肉など、さまざまな細胞になる能力を持つ人工多能性幹細胞。皮膚や血液など体の細胞の中に、山中教授らが見つけた特定の遺伝子などを人工的に組み入れるだけで、誰からでもつくれる。患者本人からiPS細胞をつくり、望みの細胞に変えて移植すれば、拒絶反応のない治療が可能になるほか、患者のiPS細胞を使った難病の解明や創薬への応用が期待されている。
 <やまなか・しんや>神戸大医学部卒。研修医を経て大阪市立大大学院博士課程を修了。2004年から京都大教授。06年にマウス、07年にヒトのiPS細胞の開発を発表し、12年にノーベル医学生理学賞を受賞。現在、京大iPS細胞研究所長。


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