死海文書の謎に新説が浮上

死海文書の謎に新説が浮上
2010年7月28日 ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト

 古代エルサレムの地下トンネルで発掘された謎のカップの暗号が解読された。そのほかの考古学的研究調査と共に、「死海文書を書いたのは誰か」という聖書時代最大の謎の1つを解明する手掛かりになりそうだ。

 新しい手掛かりから、死海文書の作成には複数の共同体が関わり、ユダヤ戦争の戦火を避けて隠されたという説が浮上した。さらに、エルサレム神殿から持ち出された可能性もあるという。

 死海文書はいまから60年以上前に、要塞都市クムラン付近の海岸の洞窟群で発見された。紀元前2世紀から紀元1世紀にかけてクムランで精力的に活動していたとされるユダヤ教の1グループ「エッセネ派」が、死海文書をすべて書いたというのがこれまでの一般的な見方だ。

 ところが新しい研究では、死海文書の多くはユダヤ教の複数のグループによってクムラン以外の場所で書かれたと示唆された。その一部は、紀元70年頃にエルサレムをめぐってユダヤとローマ帝国の間で起こった攻防戦から逃れた集団だという。この戦いでは伝説に残るエルサレム神殿も破壊されている。

 1947年、ベドウィン族の羊飼いによって発見された死海文書は1951年から発掘調査が行われた。フランスの考古学者でカトリック教会の神父でもあるロラン・ドゥ・ヴォー率いる国際チームは、1953年から文書の研究を開始した。文書のほとんどはヘブライ語で書かれている。

 死海文書が見つかった11の洞窟がクムランに近いことから、当時クムランで活動していたエッセネ派が作成者だとドゥ・ヴォーは結論づけた。文書の内容も、ドゥ・ヴォーの説を裏付けているようにみえる。書かれた共同生活の規則の一部がエッセネ派の風習と一致しているのだ。

「死海文書には共同体の正餐からみそぎの手順まで書かれている。クムランに関する考古学的見解とも一致していた」と説明するのは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の考古学者ロバート・カーギル氏。アメリカで7月27日に放映された米ナショナルジオグラフィック チャンネルのドキュメンタリー番組「Writing the Dead Sea Scrolls(死海文書を書いたのは誰か)」の出演者だ。

 2009年、エルサレムのシオン山で約2000年前のカップが発掘された。カップの表面には、死海文書の一部で使われている暗号と似た文字列が刻み込まれている。最近解読された文字列の内容から、エルサレム出身の宗教指導者が文書の一部を書いたと推測する専門家も現れた。「聖職者たちは文書を暗号化し、世俗の有力者の目を遠ざけていた可能性がある」とUCLAのカーギル氏は話す。

 新たに浮上した説では、エッセネ派はもともとエルサレム神殿の聖職者だったが、不正な手段で大祭司の地位に就いた王に反抗し、紀元前2世紀に自らを追放の刑に処してクムランへ逃亡したとしている。その後、自分たちの教えを書いた文書が死海文書の一部になったという。

 聖職者は逃亡先のクムランで彼らの古い習慣の一部を実践したのかもしれない。暗号で文書を残したのはその現れと解釈できる。また、文書のすべてがクムランで書かれたのではなく、エルサレム神殿由来の一部は保護目的で神殿から持ち出された可能性があるという。「死海文書の作成者が聖職者だとすれば、既成の解釈は大きく変わるだろう」と、カーギル氏は番組内でコメントしている。

 カーギル氏を含め多くの考古学者が、エッセネ派は死海文書の一部を書いたが、すべてではなかったと考えている。その考古学的根拠のひとつが、2007年にイスラエルの考古学者ロニー・レイヒ(Ronnie Reich)氏の研究チームがエルサレムの地下で発見した古代の排水トンネルだ。

 西暦70年頃にローマ帝国が攻め込んだ際に、ユダヤ人が避難のために使った通路とみられ、ユダヤ教の重要文書もこのとき一緒に持ち出された可能性があるという。また、トンネルの出口があるキドロンの谷は死海、つまりクムランに近く、新説を裏付ける要素となっている。

 だが、死海文書がクムラン以外の場所から持ち込まれたという今回の説には反対意見も多い。例えば、ニューヨーク大学でヘブライとユダヤを研究するローレンス・シフマン氏は、「文書のほとんどが一貫したテーマで筋道が立っているため、別々の場所から洞窟に持ち込まれたとは考えにくい。もしそうだとすれば、エッセネ派とは異なるグループのイデオロギーが書かれた文書が見つかるはずだ。この説が事実である可能性は非常に低いだろう」と指摘する。

 カーギル氏は、「書いたのが誰であれ、死海文書はユダヤ人にとって“聖なる書物”であり失われないよう大事に保管されたが、いつの間にか砂漠に埋もれたままになってしまった。エッセネ派かどうかに関わらず、紀元1世紀のユダヤ教の多様さを示す貴重な文書であることに間違いはない」と話している。

Ker Than for National Geographic News



・歴史にも強いドキュメンタリーを作るナショナルジオグラフィック。日本では有料チャンネルで見られるようだが、ニコニコ動画でも一部番組を無料で見られることもある。

死海文書に関しての番組で、従来の仮説を疑う内容ということだ。それでなければ番組を作る意味もないだろう。

特に考古学の研究は、新たな事実を展開する上で欠かせない材料を提供してくれる。

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NHKスペシャルの大英博物館の特集で従来、”白い”文明と思われていた古代ギリシャ文明だが、彩色を施した華麗な文明であることを紹介した。これなども考古学等の成果であろう。
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