NHKクローズアップ現代 人生の最期 どう迎える?~岐路に立つ延命医療~

NHKクローズアップ現代
人生の最期 どう迎える?~岐路に立つ延命医療~
No.3199
2012年5月17日

今年3月、日本老年医学会は「患者本人のためにならない場合には治療の差し控えや撤退も選択肢」とするガイドラインを発表した。特に議論となっているのは食べられなくなった患者のお腹に穴を開け、胃に直接栄養を流し込む「胃ろう」。寝たきりで意思表示もできないまま何年も生きる患者を前に、「本人は生きることを本当に望んでいるのか?」と悩み、胃ろうの中止を希望する家族が出てきている。患者本人の意思を確認できない中で、医師や看護師は患者の人生や家族の願いにどう寄り添えばいいのか。模索する現場を取材し、変容する終末期医療の現状と課題を探る。

出演者: 新田國夫 (医師) 米原達生(NHK生活情報部・記者)



・胃ろうをめぐる問題に焦点が当たっているが、広く終末期医療のあり方を考えることになる。ガイドラインは、その論点整理のものであり拘束力を持つものではない。

番組では、胃ろうの判断を巡っての家族の疲れ・葛藤を通しての現状を伝えた。番組でとったアンケートでは、胃ろうをして良かったと分からない・悪かったという家族の反応が拮抗していた。このあたりの数字が現状であると思う。つまりどちらにも配慮すると思考停止になるということだろう。

本人にとって最善の選択を代行することができるのか否か。特に胃ろうが長期になり容態が改善しない場合は、何のための延命だろうという疑問は起こるに違いない。

特に判断能力がない・できない状態においては、家族が最終的な判断をする立場となる。それに対してサポートしようという立場で医療者が取り組むことはあるだろう。胃ろうを中止するという選択が、即、延命しないという結果になるだけに難しい。

こうした状況に対して、生前からの意思確認をするという動きは拡がっているように感じる。胃ろうだけでなく、緊急事態における対応などの医療処置、連絡してほしい人たち、財産の処分等々の問題は平時から考えておいてもよいことだ。

生命に対する医療技術の進歩はめざましく、その倫理的な規範はない。だからこそ宗教的な見方も必要であり、生命の永遠性や死に対する不安の軽減、家族に対するフォローなどが期待されるところである。

胃ろうの問題は、こうした生と死という問題の延長線上にあり、これを契機として自分自身のいのち、家族のいのちにも配慮していくことしかないだろう。個別の問題だけに答えはない。折に触れて身の処し方を話し合っておくことがベター。

番組では触れられなかったが尊厳死法案が超党派で国会に提出される予定もあり、責任の問題も議論されることになる。特に難病を患う障がい者団体の反発があり実現が困難な状態にある。


【参考資料】
①平成23年度 厚労省老健局老人保健健康増進等事業
高齢者の摂食嚥下障害に対する人工的な水分・栄養補給法の導入をめぐる意思決定プロセスの整備とガイドライン作成」 PDFファイル
平成 24年3月 日本老年医学会

日本老年医学会  http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/

②平成23年度 老人保健事業推進費等補助金
「終末期の対応と理想の看取りに関する実態把握及びガイドライン等のあり方の調査研究」報告書 PDFファイル
2012.04.13 全日本病院協会

全日本病院協会  http://www.ajha.or.jp/


新田國夫(医師)の発言

●判断に苦悩する家族
恐らくそこをやめるということは、即、死につながるわけですね。そうすると、どんなに本人が意思を持ったとしても私がそのようなことをしていいのかという、その思いは誰しもあって、私が決定をしていいのかどうかということも家族の問題で、それはあると思いますね。

胃ろうをつける経緯は、さまざまな場合があるんですが、最初は例えば脳卒中等で急性期に入院しますよね。いわゆるそのときに救命救急が、医療が行われる。ところが実際は、そこで即、じゃあ食べることができるかというと、そういうわけにはいかない。すると1週間もすると、あるいは10日ぐらいするとですね、そこから、病院から出なければいけない。それは現在、医療システムがありますね。

一方では、社会学的な問題として、それをつけないと、次の施設へ行けないということがありまして、それで胃ろうをつけようかという話で、病院の医師は家族に言うわけですね。

救命と延命というのは、裏腹の関係ですよね。救命はしたんだけども、それが長く、長く生きる。そうするといわゆる延命行為だといわれるわけですね。そうすると家族にとってみれば、本人の意思、あるいは尊厳を、それでいいのかっていう思いに絶えず悩むわけですね。

●胃ろうの中止 医療現場では
胃ろうの中止の条件というのは、最初3つあるわけですが、1つは本人の意思が明確であること。それで家族が代行判断ってあるんですが、その代行判断は、本人の意思を尊重した判断であること。そして最後に最善の医療という、2つがない場合、最善の医療があるかということですよね。

その最善の医療っていうのはこれまた難しいんですが、医学的な知識と手段だけではなくて、それ以外に今のその人が持ってきた文化的な問題、文化的な資産、あるいは社会的な状況、家族関係、トータルを含めて最善の医療判断をするという、その中で決めてくというそこがまた難しい、誰が決めるのかという難しさがあります。(一人一人の生存権と尊厳の両立、あるいはぶつかりあいは)もちろんあると思います。

●患者にとって“最善の医療”とは
これは一番難しいのは、先ほどの運ばれる、救命救急で運ばれる、その医療者が最善の医療を判断できるかというと、最善の医療というのは、医療手段と知識のみで判断されるものでない以上はそれは難しいだろうなと。

そうすると、それにまつわる、それに近くにいる、例えば地域の掛かりつけの医師とか、そういった人たちがそこに一緒になって家族と考えるということがまず必要になるだろうと思いますし、もう一つ、現実に行われているのは、そこでいわゆる急変する、それで病院に運ばれる、そして救命されてそして延命する、さらにまた戻ってくる、それを繰り返す。

そういう中で、ご本人の意思、いわゆる尊厳というのは、置き去りになってきてるわけですよね。そのことの中でだんだん本人は、いわゆる僕は意思のなくなった終末期に、終末期って非常に定義が難しいんですが、そこにみとりの医療があるべきだろうなというふうに思うわけですね。そこが本人の意思を尊重したものであって、そこのところがこれから求められるんではないかなと思います。



追記

胃ろうの導入で学会が指針
2012年6月30日 NHK

患者の胃に穴を開けチューブで栄養や水分を送る「胃ろう」などの人工的な栄養補給について、日本老年医学会は生活の質が損なわれる場合には、本人の意向によって導入を差し控えることができるとする指針をまとめました。

食べることができなくなった患者の胃に穴を開け、チューブで栄養や水分を送る胃ろうについては、延命の効果がある一方、終末期の高齢者では必ずしも本人の利益につながらないという声があがっています。

このため、日本老年医学会は医療や介護の関係者が胃ろうなどで人工的に栄養を補給する際の指針をまとめました。指針では自分で食べることができないか十分に検討したうえで、延命効果が期待できても生活の質が損なわれる場合には、本人の意向によって胃ろうなどの導入を差し控えたり、中止したりできるとしています。

本人の意思が確認できない場合は、家族と十分に話し合い、本人にとって最善の選択を行うとしています。また、医療関係者には医学的な情報だけでなく、胃ろうなどで生活がどう変わるのか十分説明し、患者や家族が納得のいく選択ができるよう支援することを求めています。

20120630

学会の理事長を務める東京大学の大内尉義教授は「胃ろうを導入すべきかどうかの参考にするだけでなく、どうすれば患者さんが満足できる人生を全うできるか、医療や介護の現場で考えるきっかけにしてほしい」と話しています。



胃ろうなど人工栄養中止可能に、医学会が指針
2012年6月28日 読売新聞

 日本老年医学会(理事長・大内尉義東大教授)は27日、高齢者の終末期における胃ろうなどの人工的水分・栄養補給について、導入や中止、差し控えなどを判断する際の指針を決定した。

 指針は医療・介護関係者向けに作成されたもので、人工栄養補給を導入する際は、「口からの摂取が可能かどうか十分検討する」などと指摘。さらに、胃ろうなどの処置で延命が期待できたとしても、本人の意向などにそぐわない場合、複数の医療関係者と本人・家族らが話し合った上で合意すれば差し控えが可能とした。

 人工栄養補給を開始した後でも、苦痛を長引かせるだけの状態になった場合などは、再度、話し合って合意すれば、栄養分の減量や中止もできるとした。

 医療側に対しては、患者側が適切な選択ができるよう、情報提供することを求めている。

 国内では近年、口から食べられなくなった高齢者に、おなかに小さな穴を開け、管を通して胃に直接、栄養分や水を送る胃ろうが急速に普及。認知症で、終末期の寝たきりの患者でも、何年も生きられる例が増えた。一方でそのような延命が必ずしも本人のためになっていない、との声が出ていた。



胃ろうの導入でガイドライン- 老年医学会
2012年07月05日 キャリアブレイン

 日本老年医学会(大内尉義理事長)はこのほど、「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」をまとめた。ガイドラインは、高齢者ケアの過程で、胃ろうなどの人工的水分・栄養補給法(AHN)の導入をめぐる選択をしなければならない場合に、適切な意思決定のプロセスをたどれるよう策定された。医療的妥当性よりも、倫理的妥当性の確保を重視している。

 ガイドラインは、「医療・介護における意思決定プロセス」「いのちについてどう考えるか」「AHN導入に関する意思決定プロセスにおける留意点」の3項目で構成されている。

 「医療・介護における意思決定プロセス」では、医療・介護・福祉従事者が、患者本人およびその家族などとのコミュニケーションを通じて、関係する皆が共に納得できる合意形成を行い、それに基づく選択や決定を目指すとされている。

 ただし、合意形成に向けた患者本人の意思確認ができない場合や、ぎりぎりまで解決できない場合の考え方なども示されている。

 「いのちについてどう考えるか」では、「生きていることは良いことであり、多くの場合本人の益になる」といった価値観に基づいて、医療・介護・福祉従事者が、個別事例ごとに患者の人生をより豊かにすることを目指し、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)の保持・向上および生命維持のために、どのような介入をするのか、あるいはしないのが良いのかを判断する上での考え方を示している。

 「AHN導入に関する意思決定プロセスにおける留意点」では、AHNの導入、減量、中止に関して特に配慮する点として、▽経口摂取の可能性を適切に評価し、導入の必要性を確認する▽導入に関する諸選択肢(導入しないことも含む)を、本人の人生にとっての益と害という観点で評価し、目的を明確にしつつ、最善のものを見いだす▽本人の人生にとっての最善を達成するという観点で、家族の事情や生活環境についても配慮する―の3点を挙げている。

 この中では、AHNに延命効果があっても、本人の人生にとって有益とは言えない場合などに、本人の意向によってAHNの導入を控えたり、AHNを導入した後も、必要なQOLが保てなくなるなどの理由で、本人にとって有益となるか疑わしい場合などに、中止したりする判断もあり得るとしている。【大戸豊】



胃ろう造設者の受入「上限あり」施設が7割- 特養ホームを良くする市民の会が調査
2012年08月23日 キャリアブレイン

 胃ろうを造設した人を受け入れる際、人数に上限を設けている特別養護老人ホーム(特養)は、全施設の約7割に達することがNPO法人特養ホームを良くする市民の会の調査で分かった。また調査では、特養の半数以上が入居定員の2割以下しか胃ろう造設者を受け入れない方針であることも明らかとなり、胃ろうが施設入所の大きな“壁”となっている現実が改めて浮き彫りとなった。

 市民の会では、昨年10月から今年7月にかけて、全国各地の特養1008施設に対しアンケート調査を実施。465施設から有効回答を得た。

 胃ろう造設者の入居申し込みが増えているかどうかの質問では、71.8%の施設が増えていると回答。一方、胃ろう造設者の受け入れ数について上限があるかという質問に対しては、70.8%の施設が上限を設けていると答えた。

 受け入れの上限数について尋ねた質問では「入居定員の1割」が37.9%で最も多かった。以下は「上限なし」が24.7%、「2割」が16.4%、「3割」が1.8%、「その他」が19.2%で、定員の2割以下しか受け入れないという施設だけで半数以上に達した。

■7割超の施設で「造設部位の皮膚トラブル」などが発生

 胃ろう造設者に発生した疾患やトラブルについて尋ねた質問(複数回答)では、「造設部位の皮膚トラブル」が74.4%で最も多かった。次いで多かったのは「痰がらみ」の73.1%、や「誤嚥性肺炎」の62.6%で、以下は「発熱」が56.8%、「嘔吐」が47.1%、「下痢」が36.6%などとなった。

 また、胃ろう造設者の日中の過ごし方で特に配慮していることを尋ねた質問(複数回答)では、「清潔」が90.3%で最多となった。それ以外では「コミュニケーション」(89.0%)や「離床の機会」(85.4%)、「整容」(68.2%)、「音楽をかける」「居住環境」(いずれも63.0%)などに配慮しているという回答が多かった。本間郁子理事長は、「胃ろう造設置者が特養でどのような生活を送っているかという情報は、これまであまり明らかになっていなかった。今回の調査結果は、患者はもちろん、胃ろう造設に携わる医師にも参考にしてほしい」と話している。



社説:視点・胃ろうと尊厳死 よい人生のため考える
2012年09月14日 毎日新聞

 高齢になって口からものを食べる機能が落ちると、胃に穴を開けて管を通し人工的に栄養分や水分を送り込む処置をすることがある。「胃ろう」という医療行為で、現在約30万人が胃ろうを受けている。無理に口から食べさせようとして誤って食べ物が気管に入り肺炎を起こす例は少なくない。鼻から栄養を入れる経鼻栄養、心臓近くの太い静脈から点滴で栄養を送る中心静脈栄養という方法もあるが、患者の体力を考えて胃ろうが選択されることが多いという。

 一方、回復の見込みがない人にまで安易に延命処置されるケースが多い、人間の尊厳や生活の質がなおざりにされている、という批判も強い。胃ろうにした方が介護がしやすいため福祉施設や家族から歓迎されるという複雑な事情もある。胃ろうそのものを否定することはできないが、もしも回復の見込みがないことが間違いなければどうすべきだろうか、重い課題だ。

 回復の見込みがなくても人工呼吸器や胃ろうを付けていれば生き続けられるということは、それを外す行為が罪に問われかねないリスクを医師側に課すことになる。先進各国で尊厳死や安楽死の法制化を求める動きがあり、日本でも超党派議連が尊厳死法案を国会に提出する準備を進めている。適切な医療を受けても回復の可能性がなく、死期が間近と判断される状態を「終末期」と定義し、15歳以上の患者の意思が文書などで提示され、2人以上の医師が終末期と判断することなどを条件に、延命処置をしなくても法律上の責任を問われないとすることなどが検討されている。

 ただ、どこまでが「適切な医療」でどこからが延命目的の処置なのか。死期が間近なことをどのような基準で判断するのか。特に難病患者や重度障害者からは安易に「回復の見込みがない」と判断される恐れがあるとの批判が以前から繰り返されてきた。個別性の強いことを法律で画一的に定めなくても、厚生労働省や学会が示したガイドラインに従って現場では延命治療を行わずに末期患者をみとっているというのも事実だ。

 安楽死を合法化して10年がたつオランダでは法に基づいた安楽死や自殺ほう助が増え、現在は年間3000件を超える。かかりつけ医への国民の信頼が高く、司法の介入も原則的にないこと、安楽死を取り上げたドキュメンタリー番組がよく製作され国民の間で議論が活発なことなどが背景にある。日本とは社会事情が大きく異なり、単純に比較することはできないが、参考にすべき点は多いと思う。



介護現場の胃ろう利用1140人
'12/10/2 中國新聞

 島根県は1日、胃に通したチューブから栄養を取る胃ろうの患者が、特別養護老人ホーム(特養)など高齢者の介護現場で1140人(昨年10月末)に上るとする初の調査結果を明らかにした。調査対象者の4・1%に達しており、県は「決して少なくない数字」と、胃ろうを処置できる介護職員の育成支援に乗り出す。

 従来の医師と看護師に加え、介護職員にも胃ろう患者の処置を認める4月施行の法改正に合わせて調べた。特養、老人保健施設やグループホームなど介護保険が適用される275施設の入所者と、一般家庭の要介護者計2万7219人を対象とした。

 回答があった245施設のうち、胃ろうなど口の代わりにチューブを通じて栄養を取る患者は114施設の955人。在宅要介護者の326人も含め、計1281人に上った。内訳は、胃ろうが最多の1140人と89・0%。鼻を通じた経鼻栄養が111人(8・7%)腸を通じた腸ろうが30人(2・3%)と続いた。

 県によると、県内の介護職員計約2千人に対し、胃ろうの処置資格を得る研修の受講希望者は約470人に上る。11月までに約400万円を投じて3回の研修を開き、160人を受講させる。県高齢者福祉課は「職員不足を理由に患者の入所を断る施設もある。胃ろうには賛否あるが、受け皿を整備することは重要」としている。



関連追記

終末期の人工透析、中止も選択肢に 学会が提言案
2013年1月30日 朝日新聞

 人工透析が必要な患者が、回復の見込みがない終末期を迎えた場合、本人や家族が透析を望まなければ、中止も選択肢とする提言案を日本透析医学会がまとめた。人工呼吸器や栄養補給の中止までの手順を定めた日本救急医学会などの提言に続き、本人の望みに反した延命を減らすことにつながる動きだ。

 重い腎不全で、人工透析をしないと生命が維持できない患者は国内に約30万人。新たに導入する患者の平均年齢は68歳で、80歳以上は約2割を占める。

 人工透析の9割以上を占める血液透析は週3、4回、専門の医療機関などで行う。血液を体外に取り出し、機械を使って体にたまった余分な水分や老廃物を取り除く。

 提言案では、自分で意思を決めることができる患者が「自然な形が良い」などと透析を拒否した場合、医療チームと十分に話し合い、合意すれば家族に伝え、合意内容を文書にして「透析の見合わせ」を決める。本人が意思を決めることができず、家族が透析を拒否した場合は、家族と十分に話し合い患者の意思を推定できれば、その決定を尊重する。透析の継続が体に悪影響を及ぼすと考えられる患者も対象にする。患者や家族の思いが変われば、透析を再開する。

 透析を中止すれば、通常、1週間から1カ月で、亡くなるという。

 案を学会ホームページ(http://www.jsdt.or.jp)で公表、3月末まで意見を募り、6月に最終案を発表する予定。

 終末医療を巡っては、日本救急医学会が2007年、条件付きで人工呼吸器の中止ができる提言をまとめた。12年には日本老年医学会が、胃ろうなど人工栄養の中止も選択肢とする指針をまとめている。 【辻外記子】



介護はお世話からリハビリへ 「普通の生活」基本に
国際医療福祉大学大学院教授 竹内孝仁氏
2013/2/1 日経新聞 集まれ!ほっとエイジ

 おむつゼロ、自力歩行などの「自立支援介護」に力を入れる介護施設が増えている。それを推進しているのが国際医療福祉大学大学院教授の竹内孝仁氏だ。家庭で介護できなくなった人が入る特別養護老人ホーム(特養)について、竹内氏は「終(つい)の住み家ではない。要介護度の高い高齢者の自立を助け、自宅に戻す役割が求められる」と強調する。介護は「お世話」から「リハビリ」へと変わろうとしている。

■1日に1500ccの水と1500~1600キロカロリーの食事を

 たけうち・たかひと 1941年東京に生まれる。66年日本医科大学卒業。日本医科大学教授(リハビリテーション科)を経て、04年より国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉研究科)。この間73年より特別養護老人ホームに関わり「離床」「おむつゼロ」などを実践。80年代後半より高齢者在宅ケア全般に関わる。著書に、「医療は『生活』に出会えるか」(医歯薬出版)、田原総一朗・竹内孝仁共著「認知症は水で治る」(ポプラ社)などがある。

――竹内先生は、特別養護老人ホームなどの施設を対象に介護力を向上させる講習会を開かれているとのことですが、どんな講習をなさっているのでしょうか。

竹内 特養の全国団体で、全国老人福祉施設協議会(老施協)という組織があるのですが、そこが施設介護の質を向上させようということで、全国の特養に呼びかけて、毎年110~120、多いときは180の施設を集めて開催しています。もう9年間、開催していますので、受講生は数千人になります。年6回、1回あたり1泊2日で徹底した事例研究をやっています。

 高齢者ケアには、基本ケアというものがあって、それを教えています。まず、状況を改善するのは水なんです。高齢者の場合、1日1500ccくらいの水をちゃんと飲んでもらう必要があります。次に、エネルギー源になる食事も1500~1600キロカロリーくらいはしっかり取ってもらう必要があります。しかも、常食(健康な人が日常生活で食べているような普通食)がいい。第3に、便秘にならないようにしなければなりません。便秘は消化機能を反映しています。便通が体調をかなり左右しています。4つ目が運動。要介護の人たちにとって一番いい運動は歩くことです。全国に40くらいある、おむつを使う入居者が1人もいない特養に行くと、入居者をすぐ歩かせるようにしています。要介護度4の人はほぼ全員、歩けるようになります。要介護度5の人がどれくらい歩けるようになるかは、その施設の技術水準次第と言えます。

■少しの支えで寝たきりの人も1カ月で1人でトイレに

――要介護度4とか5とかいうのは「寝たきり」といったイメージですが、歩けるようになるのですか。

竹内 介護度5というのは一番、介護度が重い人ですから、人の手を借りないと寝返りさえ打てません。そういう人がつかまり立ちで、だいたい5秒くらい、なんとか倒れないでいられれば歩けるようになります。5秒、倒れないでいられたら、即刻歩行器を使います。

 初めは寄りかかっているのですが、寄りかかると歩行器は前のほうに進みます。そうすると足が引きずられていって、歩行運動が自然にできるようになります。朝昼晩、食堂に行くときに「途中まででもいいですから、がんばって歩きましょうか」と言って、歩行器を使うようにすると、2週間くらいで、歩行器を使って歩くことができるようになります。完全に寝たきりだった人が1カ月くらいで、少し支えてあげると、手すりにつかまって、そろりそろりとトイレに行けるようになります。

 なんで歩くことに重点を置くかというと、歩くことが自立につながるからです。病院に行ってすぐにおむつをされるのは歩けないからです。トイレまで歩ける人はおむつは要りません。歩くと便通が良くなります。そして、「歩けた」というのが生きる励みになります。歩けるようになるとあらゆる活動が活発になります。

■流動栄養物では食べる楽しさ失う

――食事をできるだけ常食にするというのはどんな効果があるのですか。

竹内 ミキサーで砕いたものや、刻んだものはおいしくありません。胃ろう(口から食事のとれない人に対して、直接胃に栄養を入れる方法)によって流動栄養物を取る方法は、食べる楽しさを失わせます。いま、各地の特養で常食化の大運動が始まっています。そして、胃ろうゼロという特養も出始めています。

 食事をベッドで食べていたお年寄りに、食堂で食べるようにしてもらったところ、お年寄りが生き生きとしました。食事は普通、家族や親しい人としますね。会食の楽しみが大事なのです。

 お年寄りみんなが食堂で食べるようになりコミュニケーションが活発になると、女性はお化粧を始めます。そして「○号室のおじいちゃんはちょっといいね」といった艶っぽい会話も出てきたりします。

――水を飲むのが基本というのはどういうことなのですか。

竹内 ふつう水を意識しないで介護していると、水が足りていないことが多いです。そうすると脱水症が起こってくるのですが、一番最初に出てくる症状は意識の低下です。意識障害が起きると、子どもが寝ぼけておねしょをするような感じになります。尿がたまっても尿意を感じないのです。尿がたまったなと分かっても抑制がきかないでトイレにいく前に漏らしてしまう。水をしっかり取ると意識がはっきりして、尿意や便意を感じて我慢ができます。

■要介護の人もできるだけ「普通の生活」を

――要介護の方でも普通の生活に近いことをするのがいいということなのですね。

竹内 私が進めている「自立支援介護」は「普通に戻れ」と言っているだけのことです。高齢化社会の問題が深刻になっているのは、自分のことを自分でできなくなっているお年寄りが増えているからなんです。だから介護が必要だし、家族がそれによって大変な思いをします。仮にすべてのお年寄りがすべて自立できると介護保険は要らないわけです。

 行きたいところに行き、食べたいものを食べる。そういう生活ができるわけです。要介護でないことはQOL(quality of life、生活の質)を高めるので、私はお年寄りの自立を目指しています。

――先生の著書「医療は『生活』に出会えるか」で、褥瘡(じょくそう)、いわゆる床(とこ)ずれを防ぐのに一番効果があったのは、お年寄りを座らせることだった、と書かれていますね。

竹内 あれは世紀の大発見です。もともとは体位交換を盛んにしていたのですが、体位交換をすると褥瘡が増えてしまうんです。落とし穴は「お年寄りは寝ている生活が当たり前だ」という発想でした。寝ているなかで褥瘡を予防したり退治したりするのは難しかった。普通の生活では寝ているばかりではなくて、座っておしゃべりしたり、テレビをみたり、食事したりするものです。そういう普通の生活をさせると褥瘡が治ったのです。

■ケアの基本は水分・栄養・お通じ・運動

――歩いたり食事を改善したりすることが寝たきりのお年寄りに効果的というお話ですが、認知症の場合も「普通の生活」をすることが大切なのでしょうか。

竹内 興奮したり、わめいたり、なかにはティッシュペーパーを食べてしまったりする異常行動がなければ、認知症になっても普通のぼんやりしたお年寄りに戻るわけです。そういう異常行動を治そうとすれば、やはり水分、栄養をとり、お通じを快適にするというのが大事になります。そして、世界の研究が一致して示しているのが運動の大切さです。ケアの基本は同じです。

――脳の問題ではないのですか。

竹内 高血圧という病気がありますね。血圧が上がるというのは血管と中を流れている血液の関係の問題ですね。けれども高血圧の原因は何ですかと聞かれたときに、塩分の取りすぎとか、肥満だとか、喫煙だとかが原因だというわけです。血管は絡むのだけれど根本的な原因というのはそういうものなのです。

 認知症も、例えば遠くの町から越してきたお年寄りがあっと言う間に認知症になるとか、お嫁さんが家にやってきて仕事がなくなったお姑さんが認知症になるとか、そういうエピソードはいっぱいあるわけです。脳だけを見て、すべて回答が出るかというと、そうではない。非常に多くの心理的、社会的な要因が絡んでいる。そういう病気だと考えないと認知症を正しく理解できないんです。

■異食も基本ケアで3分の2は治る

 紙を食べてしまう異食といった症状は、水分、食事、お通じ、運動の基本ケアで3分の2は治ってしまいます。認知症というのは認知障害が起きる病気です。ここがどういう場所で、自分とどういう関係があって、だから自分はどうしたらいいかということが普通はぱっと分かるのですが、認知症の人は分からない。

 認知力が低下していく原因のなかに、体調があります。水、食事、快便、運動はすべて体調に関係しています。それを立て直すと、異食をしていても3分の2くらいは治ってしまうのです。残りの3分の1は別の理由があるので固有のケアを追加していきます。

――先生が取り組まれているような介護は、まだ十分には広がっていないと思います。どのようにすれば広がるのでしょうか。

竹内 最終的には教育の問題になると思います。今の介護職の学校教育では自立支援介護教育はされていません。私が研修会でやっている研修では、学校でやるべき内容も半分教えなければなりません。だから2日間の研修を6回もやらなければいけないのです。

■低い介護職の待遇 看護師並みの賃金を

――自立支援というよりも、単にお世話をするという感じになっているのでしょうか。

竹内 現状ではそうですね。ですから介護の専門学校を卒業して特養に行くと、おむつをしている人を自立させるのではなくて、まずおむつ交換をさせられる。それから食事の介助。自分で好きなものを食べられるようにするようには持っていきません。

――先生がお考えになるプロの介護は自立支援を目指すものなのですね。

竹内 介護士と看護師がいたときに、世間の人たちは、看護師は専門家と見ます。けれども、介護士を専門家とは見ません。それが介護職の待遇の低さに関係していきます。介護職の賃金を看護師並みにしたいと私は思っています。特養などでは30歳前後の看護職と介護職の年俸は100万円くらい差があります。世間の人が介護の人もこんなに素晴らしい専門性を持っていて頼りになるんだと思ったときに介護職の給料は上がると思います。

■現行制度の矛盾 要介護度下げると報酬は減少

――自立支援介護で要介護度を下げると介護報酬が下がるという制度の矛盾もあります。

竹内 現状はその通りなのです。がんばって自立させると要介護度が下がって報酬が減ります。ところがおむつがゼロになった瞬間におむつ代が年間数百万円節約できる。胃ろうを外したり、ペースト食、ミキサー食を普通食に変えても、相当コストが下がります。

 一方、要介護度5でおむつをしていた人が立っておむつが外れても、いまのチェック方式だと、要介護度2にはなりません。なかには要介護度3くらいになる人も出てきますが、トータルで見ると減収にはなりません。

 自立支援介護などの努力をしたくない人が、「頑張ると介護報酬が下がるからやらない」と言っているだけです。“治す介護”にもっと前向きに取り組んでほしいと思います。

――施設に入っても自宅介護と同様に、「お世話される」だけならば、自宅介護のほうがいいわけですが、施設に入って治してくれるならば、施設介護の優位性が高まりますね。

竹内 私が考えている自立支援介護は、こういうイメージです。「要介護になったら施設にいらっしゃい。テキパキ治してあげるから。そうしてまたお家へ戻りましょう。要介護になったらまたいらっしゃい」――。出たり入ったりする。

 “在宅復帰特養”になれと言っています。いま在宅で要介護認定を受けたばかりの人が1年後に要介護で4や5に重度化する例は多いです。年間21万人くらいが自宅で重度化しています。病気をした人が入院した後、老人保健施設や回復期リハビリテーション病院へ行って家に帰るというルートはあるのですが、家にいたまま要介護度が高くなる人は病院では受けてくれません。ですから特養にそれを受けたらどうかと言っています。

■自立支援介護の推進が離職者増に歯止めかける

――現状、特養は入居待ちの人が42万人もいると言われています。

竹内 それは家に戻さないからです。特養は終の住み家ではありません。だいたい3カ月あれば、要介護度4や5でも、ほどほどのところに持っていけます。

――今後、介護のプロと呼べる人材を増やしていくことはできるのでしょうか。

竹内 5人で10人の介護をするのがいまは精一杯ですが、自立支援でふんばると5人で15人をみることができるようになります。でも5人を8人にするのは大変ですね。

 それと自立支援介護に価値を見出した人は離職しなくなっています。自立支援介護に力を入れることで離職者が出やすい環境を改めることはできます。

――介護保険法は、自立支援を目的にしているのですか。

竹内 「要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする」という一文がありますが、その大事な理念が実現していません。

――竹内先生が孤軍奮闘では、困りますね。

竹内 私の考えを継ぐ人間はたくさん出てきていますので大丈夫です。すでに事例の指導などは私がやる必要はなくなっています。

(ラジオNIKKEIプロデューサー 相川浩之)

[ラジオNIKKEI「集まれ!ほっとエイジ」9月26日、10月3日放送の番組を基に再構成]



終末期の透析、中止も選択肢=患者意思を尊重、学会が提言案
2013年2月18日 時事通信社

 糖尿病や腎臓疾患で人工透析が必要な患者が終末期を迎え、透析を望まない場合は、治療見合わせも選択肢に入れるとの提言案を、日本透析医学会が18日までにまとめた。一般からの意見募集を行い、6月の学会総会を経て正式決定する。

 透析は血液を体外の装置に送って老廃物や水分を取り除く治療で、中止すれば通常は1~2週間で死に至る。

 受けている患者は全国で約30万人。治療を始める年齢は、平均68歳と高齢化が進んでいる。医療現場では、患者側から中止を要請されるなどの例があるとして指針を求める声が上がっていた。



「延命処置望まず」も意思表示は僅か
2013年5月14日 NHK

千葉県が独自に行った終末期医療に関する意識調査で、86%の人が延命処置を望まないと回答したにもかかわらず、そうした意思を書面で用意している人は5%にとどまっていることが分かり、千葉県は本人が望む形で終末期を迎えられるよう意思表示の仕組みや、啓発の方法について検討していくことになりました。

この調査は、終末期医療を巡る意識を探ろうと、千葉県がことし2月に初めて行ったもので、40歳以上の県民1万人余りが回答しました。

この中で、自身に死期が迫ったときに胃に穴を開けてチューブで栄養を送るなどの延命処置を望むかという質問には56.8%の人が「望まない」と回答し、「どちらかというと望まない」と回答した人と合わせると、全体の86%に上りました。

一方で、そうした意思を書面で用意していると答えた人は5.3%にとどまり、70歳以上の人に限っても8.3%でした。

終末期医療を巡っては、病気などで意思の疎通が難しくなった患者の場合、延命処置を続けるか家族や医師が難しい選択を迫られることがあります。

このため千葉県は「本人が望む形で終末期を迎えられるよう、今年度中に終末期医療ついて自身の意思表示をしやすい仕組みや、啓発の方法について検討を進めていきたい」としています。



終末期、脱「胃ろう」進む 広島県の基幹病院、件数2年で35%減
'13/6/16 中國新聞

病気などで食べられなくなったときに胃にチューブで栄養を送る「胃ろう」を、終末期に利用する患者が減っている。広島県内の基幹病院32病院では、2012年度の胃ろうの造設手術の件数は計1070件で、2年前より588件(35.5%)減少したことが15日、中国新聞の調べで分かった。(余村泰樹、平井敦子)

望まぬ延命に拒否感
広島県の基幹病院件数2年で35%減望まぬ延命に拒否感胃ろうは優れた栄養補給法として高齢者を中心に急速に普及してきたが、一度近設すると栄養補給の中止が難しい。意識がなくなり延命を望まない状態になっても、長期間生き続ける状況が生まれかねない。医療機関や介護施設で、胃ろうによる終末期の延命を選択しない人が増えている。

県内の公立病院とJA、済生会などの公的病院計32病院に10~12年度の胃ろうの造設手術件数を尋ねたところ、10年度は計⊥658件▽11年度は計1422件で、年々減少。9割の29病院で、12年度の件数が10年度より減っている。

12年度の件数が最も多かった国立病院機構28・2%減。JA広島総合病院(廿日市市)は104件で30・2%減。このほか、福山市民病院(福山市)は12件で72・7%減、JA吉田総合病院(安芸高田市)は29件で59・7%減と、大きく減った。

市場調査会社アールアンドディ(名古屋市)によると、メーカーが全国に出荷した造設キット数は10年前から増加傾向が続いてきた。しかし、12年は11万3100セットで、前年より14%減った。

胃ろうの普及に取り組んできた「広島胃瘻と経腸栄養療法研究会」の代表幹事を務めるJA広島総合病院の徳毛宏則副院長は「胃ろうは正しく使えば再び食べるための支援になる。しかし、安易に造設すると望まぬ延命にもつながる。患者や家族が判断するための情報提供をしっかりするべきだ」と話している。

問い直される役割
胃ろうが減少したのはそのその役割は何か、見つめなおす人が増えたからだろう。

本来フタタ部食べられるようになるまで栄養面で支えるなど生活の質を向上させることが目的。約15分の内視鏡手術で簡単に増設でき、ほかの人工栄養法より患者の苦痛や負担も小さい。2000年ごろから広がった。

全日本病院協会は10年の利用者を約26万人と推定する。しかし、利用者の4割は85歳以上。老衰でたべられなくなったために使う患者が増えた。意思疎通ができなくなり家族が「もう逝かせてあげたい」と思ってもなお、胃ろうによって人生の幕を閉じられない場合もある。それは本人が望んだ姿だろうか。

「尊厳を損なう可能性がある」として、日本老年医学会は昨年1月、高齢者の終末期の胃ろうなど経管栄養の導入は「慎重にすべきだ」と立場表明。

自然に任せて穏やかに死ぬことを進める医師の著作も相次ぐ。終末期の延命への意識が転換期を迎えている。



胃ろうの6割、回復見込みないまま装着 漫然とした実態
2013年9月16日 朝日新聞

 口から食べられなくなったお年寄りらの胃に直接栄養を送る胃ろう。本来、回復する見込みのある人への一時的な栄養補給手段だが、実際には約6割で回復の可能性がない人につけられていることが、医療経済研究機構の調査でわかった。

 厚生労働省の補助金を受けて、昨年12月~今年1月、全国約800の病院、約1360の介護施設から回答を得て分析した。胃ろうにした1467人の患者情報が集まった。約2千人の家族から回答があった。

 胃ろうをつけた時点で将来、口から食べるよう回復する可能性があったのは24%で、可能性なしは59%を占めた。つけた後にはのみ込みの訓練が必要だが、訓練を受けた患者は全体の49%にとどまった。【辻外記子】



20131112
中日新聞 県内版 2013/11/12



胃ろう患者回復に診療報酬を加算 積極的なリハビリ促す
2013年12月11日 東京新聞

 厚生労働省は11日、腹部に開けた穴から管で胃に栄養を送り込む「胃ろう」の処置を受けた患者にリハビリを施し、口からの食事ができるまで回復させた医療機関に対し、診療報酬を上乗せする方針を示した。2014年度の診療報酬改定に盛り込む。中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)に提示した。

 厚労省は積極的なリハビリを促し、食べ物や水分を飲み込む機能を取り戻した患者をできるだけ増やし、患者の生活の質を向上させたい考えだ。(共同)



資料 外部リンク
終末期医療に関する意識調査検討会報告書及び人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書の公表について
平成26年4月2日 厚生労働省 医政局指導課在宅医療推進室


国も動いた 「胃ろう大国」日本からの脱却
.2015年4月14日 dot  ※週刊朝日 2015年4月17日号より抜粋

 終末期のお年寄りの胃に直接栄養を送り込む「胃ろう」を巡って賛否の声があるなか、再び口から食べることで生きる意欲を取り戻してもらおうという“挑戦”が介護現場で始まっている。

 胃ろう本来のメリットは栄養状態を改善する効果が高く、体力が戻って再び口から食べられるようになることだ。しかし、その趣旨は次第に変容し、口から栄養を取れない高齢者が一日でも長生きできる治療、つまり延命措置ととらえられるようになった。胃ろうの実態について調査し、共著『老い方上手』(WAVE出版)で、そのデメリットも含めて指摘した東大大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理講座の会田薫子特任准教授が言う。

「ここまで普及した背景には、経営面で入院日数を短縮させたい医療機関側がまだ口から十分に食べることができない患者に早期退院を促そうと勧めたり、介護施設側が食事の手間を減らし誤嚥(ごえん)のリスクを避けるために入所者に提案したりするケースが増えたことも影響しています」

 結果、日本は世界のトップを走る長寿国ながら「胃ろう大国」と呼ばれるようになった。こうした現状に専門家が異論を唱え始めたのが2011年ごろから。特養などを運営する法人で構成する「全国老人福祉施設協議会」(東京都千代田区)はモデル事業「胃ろう外しプロジェクト」に乗り出した。参加した施設の一つが青森県弘前市の特別養護老人ホーム「サンアップルホーム」だ。

 総括主任介護職の大里めぐみさん(42)によると、施設に入居する経管栄養の延べ46人について11年6月から14年10月まで調査したところ、34人が1日2~3食を普通食に戻せた。食べる訓練を始めて1カ月以内で戻せたのが15人、1カ月以上は19人に達した。 モデル事業の責任者である竹内孝仁・国際医療福祉大大学院教授は、慢性的な人手不足の施設が介護の効率化をはかるために、とりわけ食事介助を短時間で済ませようと、のみ込み困難な人に流動食を与えてきた歴史があると語る。

「こういう考え方が咀嚼(そしゃく)や嚥下機能を低下させて胃ろうの誘因になった面があります。プロジェクトの目的は胃ろうを外すのではなく、『最期まで好きなものを自分の口で食べたい』というお年寄りの思いをかなえるのが狙い。そのためには介護者のケアの質を向上させる必要がある」

 たとえば高齢者が食事する際、多少時間がかかっても、介護職はその人ののみ込みや食べ終えるのを待つという姿勢を貫く。

 サンアップルでは食事中にお年寄りがむせると、職員はその原因を必ず確認し、対策を講じる。また寝たきりにならないよう、入居者に水を少しずつ飲ませて膀胱に尿をため、そこに職員が定期的に排泄介助に入り、ポータブルトイレを使えるようにしたり、おむつを外したりする。

 とはいえ、すべての人が胃ろうを外せるわけではない。病気によっては経管栄養に頼らざるを得ない人がいるのも事実だ。脳梗塞などの脳血管障害やパーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経難病、脊髄小脳変性症がこれに当てはまる。それでも最近では安易な胃ろう造設に歯止めをかけようとする声や、「口から食べる喜び」を取り戻させようとする流れが強まっている。

 日本老年医学会は12年1月、「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する「立場表明」を10年ぶりに見直した。その骨子は、すべての人は人生の最終段階で最善の医療及びケアを受ける権利を持つと位置づけた上で、胃ろうを含む経管栄養などについて「患者本人の尊厳を損なったり苦痛を増大させたりする可能性があるときには、差し控えや撤退も選択肢として考慮する必要がある」と明記した。厚生労働省も昨年4月、胃ろうを外せる患者を増やすために、局所麻酔で10~15分程度で胃ろうが造設できる「PEG」手術の診療報酬を4割下げ、胃ろうが本当に必要かを調べるためののみ込み機能の検査や術後のリハビリへの加算を手厚くした。


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2012年05月20日(日) 06時42分 |

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