NHKスペシャル 木嶋被告 100日裁判

NHKスペシャル 木嶋被告 100日裁判
2012年4月15日 NHK

裁判員制度は3年が経過し、制度の検証が始まろうとしている。「人を裁く」という重い現実と向き合わなければならない裁判員たち。今年1月からその究極とも言える裁判が進んでいる。100日にわたる長期審理となった木嶋佳苗被告の裁判だ。男性3人が連続して不審死したこの事件で、検察は被告による連続殺人だと主張。一方、被告側は無罪を主張して真っ向から対立している。決め手となる直接的な証拠はなく、あるのは間接的な状況証拠のみ。専門家ですら判断の難しい事件で、市民から無作為で選ばれた裁判員たちが決断を迫られた。いったい裁判員たちは何に悩み、どんな議論を重ねたのだろうか。実際の評議は「守秘義務」というベールに包まれ、裁判の後も一切明らかにされない。NHKでは、これまで様々な事件で裁判員をつとめた経験者たちに木嶋被告の裁判の傍聴を依頼。裁判記録も読み込んでもらった。そして、裁判映画「それでもボクはやってない」の周防正行監督が経験者たちと議論し、裁判について考えていった。そこからは「人が人を裁くことの重み」や、裁判が大きく変わる可能性も浮かび上がってきた。木嶋被告の裁判を通じて、制度の課題と可能性を見つめる。

周防正行(映画監督)堀部敏男(NHK記者・社会部司法キャップ)

【キャスター】三宅民夫
【語り】伊東敏恵



・裁判員裁判に関する議論が盛んなのは、制度発足から3年後に見直しが行われるためである。

この木嶋被告裁判は世間の注目を浴びるとともに、裁判員裁判上でも長期の裁判と物証のない裁判として判決の行方が注目された。

この番組では、6人の過去に別の裁判員裁判に出廷した市民に、開示されている情報をもとにし模擬裁判を実施し、その経過を推測しつつ判断のする上での困難さを見せてくれた。

日本の裁判員裁判では、有罪無罪の判断とともに量刑の重さをも職業裁判官とともに協議するという制度を作り上げた。つまり、今回のような死刑判決にも一般市民が直接かかわることになってしまった。

この裁判については、極めて物証が少なく間接的な事実をつなぎ合わせてストーリーを作り上げていくしか検察には手段がなかった。それは、事件が起きた当時には自殺・事故と判断されて十分な鑑識活動がされていないことが一因となっている。

加えて、量刑の重さについても求刑通りに死刑にするのか、無期懲役などに減刑するのかといった問題もあったことだろう。

番組に参加した6人の市民は、自営業者から主婦や学生といった人たちであり一般的な市民層を反映していた。参加者にとっては、検察官が作り上げたストーリーを、もう一度検証して納得できるものかを確かめる作業といってよい。

その点で、検察官のストーリーをほぼ鵜呑みに判断を下していた職業裁判官とは自ずから視点が違うことが大事な点である。

一般の報道でもあるように、特にワイセツ事件などで厳罰化の判決が多く出されており、被害者に対する同情ということが問題とされている。ただ、女性の裁判官が少なかったことから女性の裁判員裁判が増えていることからも当然の結果ともいえるだろう。

NHKでは過去にも裁判員裁判に関して機会を得ては報道しており、否定的な見方は一切していない。誰もが裁判員に推薦されるのだから、こうしたことに関心を持つことは重要だ。

お昼のワイドショーなどにあるような噂の真偽ではなく、被告の人生や被害者・家族の人生をも左右されるだけに真剣に向き合いたい。


<以下参考>

作家・佐野眞一氏 木嶋被告を「史上最強の女犯罪者」と評す
2012年6月16日 NEWSポストセブン

「これは東電OL事件を超える事件だ」――。東電OL事件の冤罪を当初から指摘していたノンフィクション作家・佐野眞一氏は、“婚活詐欺女”による首都圏連続殺人事件のことをそう語る。裁判員裁判としては異例の長さとなった100日裁判を傍聴し、『別海から来た女』(講談社)を上梓した佐野氏の目に、木嶋佳苗被告(37)はどう映ったのか。ノンフィクションライター・柳川悠二氏が、佐野氏に聞いた。
 * * *

――佐野さんは、日頃から「犯罪者にも位階がある」と口にしていますが、木嶋被告という犯罪者の“位”は高いですか。

「高いよ! 突出して高い。東電OL殺人事件が純文学的要素のある事件とするならば、被害者との関係が希薄で、無機的に殺人を繰り返した首都圏連続不審死事件は愚劣な女が引き起こした三文小説的事件という人もいるかもしれない。でも私は違うと思う。
『山より大きな猪は出ない』という言葉があるけれど、木嶋が“キ○ガイ”猪だとしたら、この猪を産みだした山というのは現代社会なんだよ。3.11の瓦礫が片づかず、原発問題も解決していないのに再稼働してしまうような愚かな社会の反映が木嶋でもあるわけだ。だから、木嶋に理解を示す誰かのように、この事件をフェミニズムで語ろうとすると、ものすごくチープな事件になってしまう気がする」

――被害者と加害者という違いはありますが、『東電OL殺人事件』(新潮社)と『別海から来た女』。読み比べれば比べるほどに、それぞれの主人公の渡辺泰子と木嶋被告は対極な女ですよね。慶応卒にして東電OLという「エリート人生」を歩んだ渡辺と、働かずに逮捕された「ニート」の木嶋被告。世間の耳目を引く凶悪犯罪は、ある意味で時代を投影する鏡でもあります。

「東電OL事件が起こったのが15年前ですよね。この間のアナログ社会からデジタル社会への変遷が、ふたりの“身体性”に現れていると思う。
 渡辺は東電のエリート社員として昼間は働き、夜になれば円山町で売春行為に走った。雨の日も風の日も、足を挫いた時も松葉杖をつきながら円山町に立ち続けて肉体を男に預けるわけです。渡辺は身体性の塊だったといえるでしょう。
 一方、木嶋は身体性がゼロの女です。働くことをせずに、男を騙し、金銭を得ようとしていたわけですから。木嶋という女は殺意の沸点が異常に低い。殺人を犯す人間には殺意が絶対条件としてあるわけだけど、木嶋は本当に殺意があったのかと思うぐらいに、まるで子供がオモチャに飽きて放り投げるように簡単に男を殺害している。
 悪魔に魂を売り、身体性のかけらも感じられない彼女は、この無機質なデジタル社会が生み出した毒婦だと思います」

――『別海から来た女』では、木嶋を早々に「サイコパス(反社会性人格障害)」と結論づけています。

「東電OL殺人事件の渡辺はファザコンだったと思うんです。私は東電に勤務していた彼女の父・達雄氏の元同僚などから話を聞くことができて、いかに達雄氏が娘を溺愛していたか証言が得られました。
 その父を渡辺は慕っていたんです。ところが、名家出身の妻はどこか達雄氏をバカにしていた節がある。父を亡くした渡辺は、いつしか母に対する復讐心が芽生え、それが年上男性との売春行為に走らせた。これが私の解釈なんです。
 フェミニズム論者、もうはっきり言っちゃうけど、『毒婦。』(朝日新聞出版)を書いた北原みのり氏なんてのは、木嶋にもファザコンの気があったというけど、そう決めつけるには材料が足りない。虐待などの過去のトラウマによって犯罪に走った可能性も彼女は示唆しているけど私はそうは思えない。100日裁判を傍聴し、詐欺被害者の声をいくら聞いても、最後まで私には木嶋を犯罪に走らせた動機がわからなかった」

――だからこそ「史上最強の女犯罪者」と。

「そう、動機が見えない犯罪者ほど、恐ろしいものはない。状況証拠しかないとはいえ、死刑廃止論者でもない限り、100人が100人とも『死刑』と判断するような事件だけど、裁判を傍聴してもなぜ木嶋が殺害せざるを得なかったのかが分からない。取材しても分からない。だから、最初から人間が壊れていたんじゃないかと思うようになった」

――首都圏連続不審死事件は裁判員裁判によって、木嶋被告に死刑判決が下されました。判決後の会見で、27歳の裁判員が「達成感があった」と話したことを、佐野さんは「欺瞞に見えた」と書いています。

「その若い裁判員の言葉だけじゃなく、判決文にしても、そして裁判中の木嶋の発言にしても、この裁判で使われた言語のすべてが平べったくて、どこかにあった文章をコピー&ペーストしたかのようだった。事件の全容もそうだけど、100日裁判自体がフラットでリアル感が欠落していたと思います」


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2012年05月05日(土) 17時59分 |

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