神話の力6

「神話が神学へ縮小したということです。神話は大変流動的なものなのです。ほとんどの神話は自己矛盾を含んでいる。そこへ神学が入ってくると、それは絶対こうでなくちゃならない、ということになる。神話は詩なんです。宗教は詩を散文に変えます」(ジョーゼフ・キャンベル)1-209

・ 神話の世界には矛盾した要素が多い。それは多様な価値を反映しているためだろう。ただ学問としての神学は統一的な世界観を示すために敢えて矛盾を良しとせずに価値判断を下す。そこで抜け落ちるものがある。人間は矛盾の塊だと言われる。一貫した主義主張を通すほど強くなく、また局面により柔軟な対応してきたために生き延びてきたのではないだろうか。例えば、生命医療分野の新発見・技術はもはや神の領域と言われるところまで迫っている。そこに堅牢な神学から生まれる答えが対応できるはずもない。誰もが分からないのだ。その際に有効なことは、生命を人間に従属するものと考えるか神秘として受け取るかという違いだろう。
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神話の力5

「神話は究極の真理の一歩手前にあるとよく言われますが、うまい表現だと思います。究極のものは言葉にできない、だから一歩手前なんです。究極は言葉を超えている。イメージを超えている」(ジョーゼフ・キャンベル)1-349

・究極とは何だろうか。それが表現できるのだろうか。神話とは究極をイメージさせる物語である。それは、宗教的古典といわれるものと同じなのである。だから、宗教的古典には究極をイメージさせる言葉を使用するが、それに捉われることは本末転倒となる。特に、字義的な解釈をどこまで推し進めていっても分からなくなる原因は、そこにあるのだ。もともと捉えることができない究極を表現しなければいけないことから起こることだ。

神話の力4

「自分の幸福について知ろうと思ったら、心を、自分が最も幸福を感じた時期に向けることです。ほんとうに幸福だったとき――ただ興奮したりわくわくしたりでなく、深い幸せを感じたとき。そのためには、自己分析が少し必要ですね。なにが自分を幸福にしたのだろうと、考えてみる。そしてだれがなんと言おうと、それから離れないことです」(ジョーゼフ・キャンベル)1-330

・キャンベル教授は「至福」を求めなさいと繰り返し述べている。それは、上記のことばにあるように一時的な興奮ではなく、あなたが最も落ち着く時間を感じることに携わることだ。それは、人それぞれに違うのであり誰かに教えてもらうことはできない。ただ、分かるのだ。これが本当にやりたかったことだと気づく瞬間があるということ。

神話の力3

「神は究極のところ、『神』という名前を含めて一切のものを超越している。マイスター・エックハルトは、究極的で最高の別離は神のために神から別れること、あらゆる想念を超越したものを経験するために神についての想念を捨てることだ、と言っています」(ジョーゼフ・キャンベル)1-121

・神という概念を超えないと神を知るという神秘を経験することはできない。つまり、神学や宗教学を極めても神は分からないということだ。神学者や宗教学者に、ときおり無神論者がいてもおかしくない理由だろう。神秘というと敬遠される素材であるには違いないが、神秘というものを垣間見るしか宗教体験はあり得ない。ただ、神秘に憧れることは非常に危険なことであり、例えば、薬物によってハイテンションに導くような邪道もある。また、神秘に浸ることは現実生活を送ることが条件のように思える。

神話の力2

「あらゆる宗教はなんらかの意味で真実です。隠喩として理解した場合には真実なのです。ところがそれ自体の隠喩にこだわりすぎて、隠喩を事実と解釈してしまうと動きが取れなくなってしまいます」(ジョーゼフ・キャンベル)1-136

・ことばというものの限界を感じるとよい。例えば、聞こえてくる音をことばで表現できるでしょうか。ことばを媒介とするものには自ずから限界があります。それを無理やりに解釈することから、さらに問題が広がります。隠喩でしか表せないものは、そのままに受け取り感じ取ることしかできません。宗教経典の誤解は、ここから生じます。また、翻訳という問題も絡んできます。

神話の力1

「生命の神秘はあらゆる人間の観念を超えています。私たちが知っているあらゆるものは存在と非存在、多と一、真理と誤謬といった観念用語の範囲内にあります。私たちはいつも対立した諸概念のなかでものを考える。しかし、究極者である神はあらゆる対立観念を超越している」(ジョーゼフ・キャンベル)1-121

・人間の限界は、その思考に枠があることだ。特に二項対立というものは、新たに昇華するという弁証法の考え方もあるが、全体を理解するといることができなくなる。それ以前に、人間はあらゆることを考慮に入れて考えることは不可能である。生命の神秘には、ただ頷くしかないのだ。

※引用はジョーゼフ・キャンベル/ビル・モイヤーズ『神話の力』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)からで1-121とは、同書の121頁を指す。


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Joseph Campbell
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神話の力 The Power of Myth

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ジョーゼフ・キャンベル(著)/ビル・モイヤーズ(著)
飛田茂雄(訳)

神話が人間に語りかけるものとそれが精神に及ぼす見えない影響を明かす

世界中の民族がもつ独自の神話体系には共通の主題や題材も多く、私たちの社会の見えない基盤となっている。神話はなんのために生まれ、私たちに何を語ろうというのか? ジョン・レノン暗殺からスター・ウォーズまでを例に現代人の精神の奥底に潜む神話の影響を明らかにし、綿々たる精神の旅の果てに私たちがどのように生きるべきか、という答えも探っていく。神話学の巨匠の遺作となった驚異と感動の名著。

ジョーゼフ・キャンベル Joseph Campbell 1904年ニューヨーク生まれ
 コロンビア大学で哲学・神話学を専攻。セイラー・ロレンス大学で長年教職につくかたわら、世界各地の神話の比較研究に多くの業績を残し、斯界の第一人者として活躍した。主な著作に『千の顔を持つ英雄』、『神話のイメージ』がある。1987年没。

ビル・モイヤーズ Bill Moyers 1934年オクラホマ生まれ
 ジョンソン政権の大統領報道官、ニュースのコメンテーターを経て、米国を代表するジャーナリストに。TVドキュメンタリーを中心に活躍し、数々の賞を受賞。現在でも積極的に活動を続けている。


単行本: 411ページ 早川書房 (1992/07発売)
新書(ハヤカワ・ノンフィクション文庫): 495ページ 早川書房 (2010/06発売)

※新書化により単行本は入手が困難
 新書版解説/冲方丁
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